⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。気になる症状がある場合は必ず医師・PT(理学療法士)にご相談ください。
🦶 このページでわかること
  • 転倒を防ぐために必要な「3つの感覚システム」の役割
  • 脳腫瘍術後になぜ転倒しやすくなるのか、その具体的な理由
  • 転倒予防に欠かせない足部・下肢の重要筋肉4つ
  • 今日からできる転倒予防エクササイズ5選(レベル別)

「退院してから転びそうになることが増えた」「段差でつまずくようになった」——脳腫瘍の治療後、こんな経験をしたことはありませんか?

実は、がんサバイバーの50〜75%が治療後の6〜18か月の間に1回以上転倒しているというデータがあります。これは偶然ではなく、手術・放射線・薬物療法が体の「バランスを保つ仕組み」に影響を与えるからです。

PT(理学療法士)でもある私(ZUN)が、転倒予防の核心となる感覚システム・筋力・実践エクササイズをわかりやすく解説します。

🧠 バランスを支える「3つの感覚システム」

人間がバランスを保つためには、3種類の感覚システムが連携しています。このうちどれか1つでも障害を受けると、転倒リスクが大幅に上昇します。

👁️ 視覚 🦵 固有感覚 👂 前庭覚 🧍 バランス維持

3つの感覚が脳で統合されることで、私たちは「今どこにいるか」「倒れそうか」を瞬時に把握しています。

🦵

固有感覚
(体性感覚)

筋肉・腱・関節にある受容器が「体の傾き」「関節の角度」「筋の張力」を脳に伝えます。足裏の皮膚感覚(触圧覚)も含まれ、地面の状態を感知します。

障害されると:暗闇での歩行や不整地での転倒リスクが急増します。

最重要センサー
👂

前庭覚
(内耳)

内耳の三半規管・耳石器が「頭の回転・直線加速度」を検知します。特に頭を動かしたときの素早いバランス調整に関わります。

障害されると:めまい・ふらつき・頭を動かすと不安定になります。

動的バランスの鍵
👁️

視覚
(目)

周囲の環境・水平線・障害物を確認し、体の傾きを補正します。他の2つの感覚が弱っているときに特に重要な補助センサーです。

障害されると:暗い場所・視野欠損がある場合に転倒リスクが急増します。

補助センサー
📌 「感覚の補完」が重要なわけ

健康な人は3つの感覚のどれかが弱くても、他の2つで補います。しかし脳腫瘍術後は複数の感覚が同時に影響を受けることがあるため、補完機能が働きにくくなります。

例えば、小脳腫瘍の術後は固有感覚の統合が障害されやすく、脳幹腫瘍の術後は前庭覚系が影響を受けやすい傾向があります。これが、術後に転倒しやすくなる根本的な理由の一つです。

⚠️ 脳腫瘍術後に転倒しやすくなる理由

🏥脳腫瘍治療が「バランス」に与える影響

  • 手術による脳組織への影響:腫瘍の部位によって、小脳(バランス中枢)・脳幹(前庭核)・感覚野が影響を受け、固有感覚や前庭覚の統合が障害されることがあります。
  • 廃用性筋萎縮:入院・安静による活動低下では1日で約3%、1週間で約10〜15%の筋力低下が起こりうるとされています。特に下肢筋力の低下は転倒リスクと直結します。
  • ステロイド投与による筋力低下:抗浮腫目的で使用されるステロイド(デキサメタゾン等)は、長期使用でステロイド性筋症を引き起こし、近位筋(大腿四頭筋・中臀筋)に影響を与えます。
  • 放射線治療の影響:放射線性脊髄症や末梢神経障害が生じると、足部の固有感覚が低下することがあります。
  • 化学療法による末梢神経障害(CIPN):ビンクリスチン・シスプラチン等は感覚・運動末梢神経を障害し、足先のしびれ・感覚低下を引き起こし、地面の感触が鈍くなります。
  • 抗てんかん薬・睡眠薬:術後に使用される薬物が平衡感覚を鈍らせ、特に夜間の転倒リスクを高めます。

💪 転倒予防に重要な足部・下肢の筋肉

「転倒=バランスだけの問題」と思いがちですが、実は足部・下肢の筋力低下が転倒の直接的な原因になることが多いです。特に以下の4つの筋肉グループが重要です。

🦶前脛骨筋(すねの前)

【役割】足関節を背屈(つま先を上げる)させ、歩行の振り出し時につま先が地面に引っかからないようにする

この筋肉が弱いと:歩行中につまずきやすくなります。「ちょっとした段差で転ぶ」の主犯筋です。

🦵下腿三頭筋(ふくらはぎ)

【役割】足関節を底屈(つま先立ち)させ、歩行の蹴り出し・立位バランス調整(足関節戦略)の中心筋

この筋肉が弱いと:バランスが崩れた際の素早い立て直しができなくなります。「踏みとどまる力」に直結します。

👣足趾屈筋群(足の指)

【役割】足趾(足の指)を曲げる筋群で、地面をしっかりとつかむ「把持力」を生み出す。立位安定の土台

この筋肉が弱いと:足趾が地面をグリップできず、ふらついた際に踏ん張れません。加齢で特に低下しやすい部位です。

🍑中臀筋(お尻の横)

【役割】股関節を外転させ、片脚立ちや歩行中に骨盤が横に傾かないよう支える。横方向の転倒予防の要

この筋肉が弱いと:歩行中に骨盤が左右に揺れる(トレンデレンブルグ歩行)ようになり、階段・坂道での横方向の転倒リスクが高まります。

📊 足関節の筋力とバランス・転倒の関係

研究によると、足関節背屈筋力(前脛骨筋)の低下はバランス能力の低下と有意な相関関係があることが報告されています。また、足関節の筋力低下は後方への重心移動への対応を困難にし、転倒リスクを高めます。

🏃 今日からできる転倒予防エクササイズ5選

以下のエクササイズは、PT(理学療法士)として考案した転倒予防に効果的なプログラムです。必ず安全な環境(壁や椅子のそばで行う)で実施してください。

1カーフレイズ(つま先立ち)— 下腿三頭筋強化

🎯 鍛える筋肉:下腿三頭筋・足趾屈筋群
  • 壁や椅子の背もたれに軽く手を添えて立つ
  • ゆっくり(2秒)かけてかかとを上げ、つま先立ちになる
  • 最高点で1秒キープし、ゆっくり(3秒)かけてかかとを下ろす
  • 下ろすときに足趾(足の指)で地面をつかむ意識を持つ
🔁 10〜15回 × 2〜3セット 📅 毎日 ⏱ 1セット約30〜45秒
💡 慣れてきたら片脚で行うとさらに効果的です。ふらつきが強い場合は両手でしっかり支持してください。

2タオルギャザー — 足趾屈筋群強化

🎯 鍛える筋肉:足趾屈筋群・足底内在筋
  • 椅子に座り、足の下にタオルを広げる(裸足で行う)
  • 足の指を曲げてタオルをつかむ(かき集める)
  • つかんだまま2秒キープして、ゆっくり指を伸ばす
  • タオルをまたもとの位置に戻して繰り返す
🔁 20回 × 2セット(両足) 📅 1日1〜2回
💡 足裏の感覚(触圧覚)も同時に刺激され、固有感覚のトレーニングにもなります。テレビを見ながらでもOK。

3ヒールウォーク&トーウォーク — 前脛骨筋強化

🎯 鍛える筋肉:前脛骨筋・長母趾伸筋
  • 【ヒールウォーク】つま先を上げたまま(背屈位)かかとだけで歩く。壁に沿って5〜10歩
  • 少し休んで、【トーウォーク】かかとを上げたままつま先立ちで歩く。5〜10歩
  • それぞれ2〜3往復繰り返す
🔁 各2〜3往復 📅 1日1回
⚠️ ふらつきが強い場合は必ず壁沿いで行い、最初は短い距離から始めてください。

4タンデム立位 — 固有感覚・バランストレーニング

🎯 目的:固有感覚・バランス統合の強化
  • 壁の横に立ち、片手を壁につける(最初は支持あり)
  • 右足のかかとに左足のつま先をつけるように、一直線に足を並べる
  • その姿勢で10〜30秒間立ち続ける(徐々に時間を延ばす)
  • 慣れたら目を閉じてチャレンジ(難易度が大きく上がります)
⏱ 10〜30秒 × 3回 📅 毎日
💡 目を閉じると視覚情報が遮断され、固有感覚だけでバランスを保つ練習になります。転倒しそうになった場合は必ず壁や椅子につかまってください。

5片脚立位(バランス強化)— 総合バランス

🎯 目的:足関節戦略・中臀筋・バランス総合強化
  • 片手を壁につけて立ち、片脚を床から軽く浮かせる
  • 支持脚(地面に立っている脚)の足関節でバランスをとる意識で保持
  • 10〜20秒キープしたら反対脚も同様に行う
  • 慣れたら支持なし→目を閉じる(段階的に難度を上げる)
⏱ 10〜20秒 × 左右各3回 📅 1日1〜2回
⚠️ 片脚立位は転倒リスクが高まります。必ず壁や椅子のそばで行い、最初は必ず手をつける準備をしながら実施してください。
🌿 ZUN体験談|脳腫瘍サバイバー × PT

「退院後、よく躓くようになりました」

私は脳腫瘍の手術後、外を歩く時や夜トイレに起きた時などよく躓くようになりました。最初は「疲れているせいかな」と思っていたのですが、PTの視点で自分を客観視すると、前庭覚(目をつぶってバランスを取るなど)の低下と前脛骨筋の筋力低下が明らかでした。

そこで始めたのが、カーフレイズ(踵上げ)。毎日ドライヤーをしながらカーフレイズを続けることで、約2〜3週間で目をつぶっての片足立ちの時間が伸びました。焦らず、毎日少しずつ続けることが大切だと改めて感じました。

特に「暗い場所での転倒」を防ぐためには、タンデム立位の目閉じバージョン(固有感覚だけでバランスを取る練習)が効果的でした。ただし、最初は必ず壁を確保してから行ってください。

❓ よくある質問

エクササイズはいつから始めていいですか?

退院後すぐに自己判断で始めるのではなく、必ず担当医・PT(理学療法士)に確認してから始めてください。一般的には術後の創部が安定し、医師から運動許可が出てからが適切です。最初は座位でできるエクササイズ(タオルギャザー)から段階的に進めるのが安全です。

どのくらいで効果が出ますか?

個人差はありますが、毎日続けて2〜4週間で「ふらつきが減った」「段差につまずきにくくなった」と実感する方が多いです。神経系の適応が先に起こり、筋肥大は6〜8週間後から見られます。「今日の自分」と「先週の自分」を比べると進歩がわかりやすいです。

転倒してしまったらどうすればいいですか?

まず頭を打っていないか確認してください。脳腫瘍の治療中・治療後は、頭部打撲は重症化リスクが高いため、軽微な転倒でも担当医に報告することが大切です。また、転倒が頻繁に起こる場合は薬の副作用やバランス機能の変化が背景にあることも。一人で抱え込まず、必ず医療チームに相談してください。

家族に手伝ってもらう必要はありますか?

特に片脚立位・タンデム立位など難易度の高いエクササイズは、最初は家族に見守ってもらうと安心です。「転倒しそうになったら支える」だけで、本人のチャレンジ意欲も高まります。家族の協力は転倒予防の重要な要素です。

夜間のトイレでの転倒が怖いです

夜間は暗くて視覚情報が乏しく、寝起きで前庭覚も鈍っているため、最も転倒しやすい時間帯です。フットライト・人感センサー照明の設置、ベッド横に手すり、トイレへの動線整理が有効です。「転倒予防は環境整備とエクササイズの両輪」と覚えてください。

📝 まとめ|「感覚+筋力+習慣」で転倒は防げる

この記事のまとめ

  • バランスは視覚・固有感覚・前庭覚の3システムで成り立つ。脳腫瘍術後はこの統合が崩れやすい
  • 転倒を防ぐ筋肉は前脛骨筋・下腿三頭筋・足趾屈筋群・中臀筋の4つ
  • カーフレイズ・タオルギャザー・ヒールトーウォーク・タンデム立位・片脚立位の5つのエクササイズを組み合わせる
  • 2〜4週間の継続でふらつき・つまずきが減ると多くの方が実感
  • 夜間・暗所・段差での転倒は環境整備で防ぐ。エクササイズ+環境改善の両輪が大切

📖 参考文献

  1. National Brain Tumor Society. “Improving Balance and Fall Prevention for Patients with Brain Tumors.” https://braintumor.org/news/improving-balance-and-fall-prevention-for-patients-with-brain-tumors/
  2. Khan F, et al. “Rehabilitation of motor dysfunction in primary brain tumor patients.” Neurooncol Pract. 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6664613/
  3. Morales JS, et al. “Balance Impairment in Survivors of Pediatric Brain Cancers.” 2021. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7936993/
  4. Physiopedia. “Cancer Rehabilitation and the Importance of Balance Training.” https://www.physio-pedia.com/Cancer_Rehabilitation_and_the_Importance_of_Balance_Training
  5. ChoosePT. “Cancer-Related Balance and Falls: What You Should Know.” https://www.choosept.com/health-tips/cancer-related-balance-falls-you-should-know
  6. Prieto-González P, et al. “Sensorimotor and proprioceptive exercise programs to improve balance in older adults: a systematic review with meta-analysis.” 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11017176/
  7. Hamed A, et al. “Effects of proprioception training program on postural stability, gait, and balance in older adults.” 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23207891/
  8. Hayashi K, et al. “The Effects of Changes of Ankle Strength and Range of Motion According to Aging on Balance.” 2013. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3604218/
  9. 日本理学療法士協会「理学療法ハンドブック シリーズ18 転倒予防」. https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook18_whole_compressed.pdf
  10. 健康長寿ネット「転倒・骨折予防の取り組み」. https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreisha-undoki-kenko/tento-kossetsuyobo-torikumi.html
  11. Scoping Review: Falls experienced by adult cancer survivors. Disability and Rehabilitation. 2024. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09638288.2024.2362399
  12. 厚生労働省「介護予防マニュアル(運動器の機能向上)」. https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html
⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。エクササイズを始める前に、必ず主治医・PTに相談のうえ、安全な環境で行ってください。

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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/