🫤「手術後、体が衰えた!?」筋肉低下の犯人6選!

⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。リハビリの開始・内容は必ず担当医や理学療法士にご相談ください。
💪 この記事でわかること
- 術後に筋力が低下する3つの主な原因(廃用・ステロイド・神経障害)
- 脳腫瘍術後に特に弱りやすい6つの筋肉と、それぞれの役割
- その筋肉が弱ると日常生活にどんな影響が出るか
- 理学療法士(PT)視点の解説と、次のステップ(鍛え方記事へのリンク)
「退院したら思ったより歩けない……」「立ち上がるのがこんなに大変だったっけ?」——脳腫瘍の手術後、こんな経験をされる方は少なくありません。これは気持ちの問題ではなく、実際に筋肉が弱っているためです。
では、どの筋肉がなぜ弱るのでしょうか?PT視点でわかりやすく解説します。
📉 1. 術後に筋力が落ちる3つの主な理由
① 廃用性筋萎縮
入院・安静・ベッド臥床が続くと、筋肉は使われなくなり急速に萎縮します。研究では1日の安静で0.5〜1%の筋力低下が起こり、特に抗重力筋(大腿四頭筋・臀筋)に著明です。10日間の完全安静で最大7〜10%の筋量低下が報告されています。
② ステロイド筋症
脳腫瘍術後はデキサメタゾン(ステロイド)が使われることが多く、2週間以上の継続投与で近位筋(大腿・骨盤周囲)の筋力低下が起こります。「ステロイド筋症」と呼ばれ、立ち上がり困難・階段昇降困難の原因になります。
③ 神経障害による筋力低下
腫瘍の場所によって運動野・錐体路が障害されると、指令を送る神経回路が断絶され、脳からの命令が筋肉に届かなくなります。片麻痺・筋緊張異常・協調運動障害の形で現れます。
🦵 2. PT視点で解説!術後に弱りやすい6つの筋肉
以下の6つの筋肉は、脳腫瘍術後の患者さんで特に弱りやすい筋肉です。一つひとつの役割と、弱くなると日常生活にどんな影響が出るかを解説します。
1
🦵 大腿四頭筋Quadriceps femoris

出典: Wikimedia Commons
ライセンス: CC BY-SA 4.0
📍 場所と構成
太ももの前面にある4つの筋肉(大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋)の総称。体の中で最も大きく、最も力強い筋肉の一つ。
🏃 主な働き
膝関節の伸展(膝を伸ばす)・股関節の屈曲(太ももを上げる)。歩く・立つ・座る・階段を上るすべての動作に不可欠。
🚨 術後の影響
廃用萎縮の影響を最も受けやすい抗重力筋。「立ち上がれない」「歩けない」の原因の筆頭。ステロイド筋症でも最初に影響が出る。ベッド臥床10日で7%超の萎縮が報告されている。
💡 PTコメント:立ち上がりテストや5回椅子立ち上がりテスト(5×STS)でこの筋肉の機能を評価します。退院後に「足に力が入らない」と感じる場合、まずこの筋肉のリハビリから始めることが多いです。
2
🍑 大臀筋・中臀筋Gluteus maximus / medius
出典: Wikimedia Commons
ライセンス: Public Domain(Gray’s Anatomy, 1918)
📍 場所と構成
お尻の筋肉群。大臀筋(最大の筋肉・体全体でも最大級)と中臀筋(大臀筋の深部・骨盤外側)から構成される。
🏃 主な働き
大臀筋:股関節の伸展・外旋(座位から立ち上がる・歩き出す推進力)。中臀筋:歩行中に骨盤を水平に保つ(骨盤の横揺れ防止)。
🚨 術後の影響
中臀筋が弱ると歩行時に骨盤が横に傾く「トレンデレンブルク歩行」が出現。「歩くとぐらつく」「腰が痛い」の原因に。ステロイド筋症で近位筋として特に影響を受ける。
💡 PTコメント:片脚立ちをしたとき骨盤が傾く場合、中臀筋の弱さを疑います。日常生活動作(椅子からの立ち上がり、坂道歩行)への影響が大きく、早期からの訓練が重要です。
3
🚶 腸腰筋Iliopsoas

出典: Wikimedia Commons
ライセンス: Public Domain(Gray’s Anatomy, 1918)
📍 場所と構成
腸骨筋(骨盤内側)と大腰筋(腰椎から伸びる)が合流した筋肉。体の深部にあり、体表からは触れにくい「インナーマッスル」。
🏃 主な働き
股関節の屈曲(足を前に振り出す)・体幹の安定。「歩くときに足を前に出す」動作の主役。立位バランスにも深く関わる。
🚨 術後の影響
長時間の臥床で短縮(硬くなる)しやすく、同時に筋力も低下。弱ると歩幅が狭くなる・足が上がらなくなる(すり足歩行)・つまずきが増える。高齢者では転倒リスクに直結する。
💡 PTコメント:腸腰筋の弱さは見た目ではわかりにくいですが、歩幅が狭い・階段で足が上がりにくい場合に疑います。「足を高く上げて歩く練習」は実はこの筋肉のトレーニングでもあります。
4
🏋️ 腹横筋・多裂筋(体幹インナーマッスル)Transversus abdominis / Multifidus

出典: Wikimedia Commons
ライセンス: Public Domain(Gray’s Anatomy, 1918)
📍 場所と構成
腹横筋:腹部を横方向に走る最も深い腹筋(コルセット様)。多裂筋:脊椎の深部に沿って走る脊柱の安定筋。2つで体幹を内側から支える「天然のコルセット」を形成。
🏃 主な働き
体幹の安定・腹腔内圧の調整・腰椎の保護。あらゆる動作に先行して収縮し、体幹を「安定させてから」手足を動かす役割(Feed-forward制御)。
🚨 術後の影響
臥床・不動化で急速に機能低下。姿勢が崩れる・腰痛が出る・バランスが悪くなる原因に。脳腫瘍によって運動制御自体が変化するため、インナーマッスルの再活性化が特に難しい。
💡 PTコメント:「体がふらつく」「腰が安定しない」という訴えの背後には、多くの場合このインナーマッスルの機能不全があります。ドローインや腹式呼吸から段階的に再教育していきます。
5
🌸 骨盤底筋群Pelvic floor muscles

出典: Wikimedia Commons
ライセンス: Public Domain(Gray’s Anatomy, 1918)
📍 場所と構成
骨盤の底面を「ハンモック」のように覆う筋肉群。主に挙肛筋(恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋・恥骨直腸筋)と尾骨筋から構成。男女共通で存在するが、女性では特に重要。
🏃 主な働き
尿道・直腸・膣(女性)の括約機能・骨盤内臓器の支持・体幹安定(腹横筋・多裂筋と協調)。腹腔内圧を上げるあらゆる動作(咳・くしゃみ・重いもの持ち)で重要。
🚨 術後の影響
長期臥床・神経障害・ステロイドにより機能低下。排尿困難・尿漏れ・便秘・腰痛の原因になる。脳腫瘍による神経障害が自律神経系にも影響し、排泄コントロールが難しくなることがある。
💡 PTコメント:骨盤底筋は「見えない・感じにくい」ため見落とされがちですが、体幹安定の要です。排泄トラブルがある場合は、遠慮なくPTや看護師に相談してください。ケーゲル体操など専門的アプローチがあります。
6
🦶 下腿三頭筋Triceps surae(Gastrocnemius + Soleus)

出典: Wikimedia Commons
ライセンス: CC BY-SA 3.0
📍 場所と構成
ふくらはぎの筋肉。腓腹筋(二頭で膝後面から踵骨へ)とヒラメ筋(腓腹筋の深部)の2筋から成り、アキレス腱につながる。「第二の心臓」とも呼ばれる。
🏃 主な働き
足関節の底屈(つま先立ち・蹴り出し)・歩行の推進力。静脈血を心臓に送るポンプ機能(深部静脈血栓症の予防に重要)。立位バランスの微調整。
🚨 術後の影響
臥床による廃用で機能低下。弱ると歩行の蹴り出しが弱くなる・転倒リスクが増す・DVT(深部静脈血栓症)リスクが高まる。術後の動作で特に歩行スピードと持久力に影響。
💡 PTコメント:ベッドでの足首の上下運動(足関節底背屈)は、この筋肉のポンプ機能を維持しDVT予防にもなります。早期から積極的に動かすことをお勧めします。
ZUNより(脳腫瘍サバイバー・理学療法士PT) PTでも「筋肉の大切さ」を身をもって学んだ術後
理学療法士として何人もの患者さんの筋力低下を診てきた私ですが、いざ自分が手術を受けてみると、その実感はまったく別物でした。「立ち上がるときに足に力が入らない」「歩くと体幹がぐらぐらする」——これが廃用性筋萎縮か、と改めて驚きました。
特にびっくりしたのは骨盤底筋です。PT として知識はあっても、自分の骨盤底筋を「感じる」ことがこんなにも難しいとは思いませんでした。排泄コントロールに関わるこの筋肉は、弱くなっても本人が気づきにくい。だからこそ早めに意識することが大切だと、当事者として実感しています。
「どこを鍛えればいいかわからない」という方のために、次の記事では各筋肉の具体的な鍛え方を紹介します。
📋 まとめ——術後に注意したい6つの筋肉
💪 覚えておきたいポイント
- 大腿四頭筋:立つ・歩くの主役。術後最も早く弱りやすく、ステロイドの影響も大きい
- 大臀筋・中臀筋:歩行安定の要。弱ると骨盤が傾き転倒リスクが上がる
- 腸腰筋:「足を前に出す」筋肉。弱るとすり足歩行・つまずきが増える
- 腹横筋・多裂筋:体幹の天然コルセット。弱ると姿勢・腰痛・バランスに直結
- 骨盤底筋群:見えにくいが排泄・体幹安定の土台。排泄トラブルがあれば相談を
- 下腿三頭筋:歩行の蹴り出し力・DVT予防。ベッド上から足首運動で活性化を
▶ 次の記事
術後に弱った筋肉を取り戻す——6つの筋肉別リハビリ運動ガイド
→
⚠️ 本記事の情報は一般的な教育目的のものです。リハビリの開始・強度・頻度は個人の状態によって異なります。自己判断での過度な運動は避け、必ず担当医・理学療法士の指示に従ってください。
📚 参考文献
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- 日本脳腫瘍学会「脳腫瘍診療ガイドライン」Mindsガイドラインライブラリ. https://minds.jcqhc.or.jp/





