「手術後、体が衰えた!?」筋肉低下の犯人6選!

「退院したら思ったより歩けない……」
「立ち上がるのがこんなに大変だったっけ?」
そんな経験、していませんか?
脳腫瘍の手術後、多くの方が想像以上の筋力低下に戸惑います。これは気持ちの問題ではなく、「廃用性筋萎縮」「ステロイド筋症」「神経障害」という3つの医学的な原因で、実際に筋肉が弱っているからです。1日の安静で0.5〜1%の筋力低下が起きるという研究もあり、術後数週間で日常生活動作に支障が出るほど落ちてしまうことも珍しくありません。
この記事では、PT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーのZUNが、術後に特に弱りやすい6つの筋肉を解剖図つきで解説します。それぞれの筋肉がどこにあり、どんな働きをし、弱るとどう日常生活に影響するか——「自分の体に何が起きているか」を理解することが、回復への第一歩です。次の記事では具体的な鍛え方も紹介しているので、合わせて読んでください。
- 術後に筋力が低下する3つの主な原因(廃用・ステロイド・神経障害)
- 脳腫瘍術後に特に弱りやすい6つの筋肉と、それぞれの役割
- その筋肉が弱ると日常生活にどんな影響が出るか
- 理学療法士(PT)視点の解説と、次のステップ(鍛え方記事へのリンク)
📉 1. 術後に筋力が落ちる3つの主な理由
- ① 廃用性筋萎縮
入院・安静・ベッド臥床が続くと、筋肉は使われなくなり急速に萎縮します。研究では1日の安静で0.5〜1%の筋力低下が起こり、特に抗重力筋(大腿四頭筋・臀筋)に著明です。10日間の完全安静で最大7〜10%の筋量低下が報告されています。
- ② ステロイド筋症
脳腫瘍術後はデキサメタゾン(ステロイド)が使われることが多く、2週間以上の継続投与で近位筋(大腿・骨盤周囲)の筋力低下が起こります。「ステロイド筋症」と呼ばれ、立ち上がり困難・階段昇降困難の原因になります。
- ③ 神経障害による筋力低下
腫瘍の場所によって運動野・錐体路が障害されると、指令を送る神経回路が断絶され、脳からの命令が筋肉に届かなくなります。片麻痺・筋緊張異常・協調運動障害の形で現れます。
🦵 2. PT視点で解説!術後に弱りやすい6つの筋肉
以下の6つの筋肉は、脳腫瘍術後の患者さんで特に弱りやすい筋肉です。一つひとつの役割と、弱くなると日常生活にどんな影響が出るかを解説します。

出典: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
太ももの前面にある4つの筋肉(大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋)の総称。体の中で最も大きく、最も力強い筋肉の一つ。
膝関節の伸展(膝を伸ばす)・股関節の屈曲(太ももを上げる)。歩く・立つ・座る・階段を上るすべての動作に不可欠。
廃用萎縮の影響を最も受けやすい抗重力筋。「立ち上がれない」「歩けない」の原因の筆頭。ステロイド筋症でも最初に影響が出る。ベッド臥床10日で7%超の萎縮が報告されている。
出典: Wikimedia Commons / Public Domain
お尻の筋肉群。大臀筋(最大の筋肉・体全体でも最大級)と中臀筋(大臀筋の深部・骨盤外側)から構成される。
大臀筋:股関節の伸展・外旋(座位から立ち上がる・歩き出す推進力)。中臀筋:歩行中に骨盤を水平に保つ(骨盤の横揺れ防止)。
中臀筋が弱ると歩行時に骨盤が横に傾く「トレンデレンブルク歩行」が出現。「歩くとぐらつく」「腰が痛い」の原因に。ステロイド筋症で近位筋として特に影響を受ける。

出典: Wikimedia Commons / Public Domain
腸骨筋(骨盤内側)と大腰筋(腰椎から伸びる)が合流した筋肉。体の深部にあり、体表からは触れにくい「インナーマッスル」。
股関節の屈曲(足を前に振り出す)・体幹の安定。「歩くときに足を前に出す」動作の主役。立位バランスにも深く関わる。
長時間の臥床で短縮(硬くなる)しやすく、同時に筋力も低下。弱ると歩幅が狭くなる・足が上がらなくなる(すり足歩行)・つまずきが増える。高齢者では転倒リスクに直結する。

出典: Wikimedia Commons / Public Domain
腹横筋:腹部を横方向に走る最も深い腹筋(コルセット様)。多裂筋:脊椎の深部に沿って走る脊柱の安定筋。2つで体幹を内側から支える「天然のコルセット」を形成。
体幹の安定・腹腔内圧の調整・腰椎の保護。あらゆる動作に先行して収縮し、体幹を「安定させてから」手足を動かす役割(Feed-forward制御)。
臥床・不動化で急速に機能低下。姿勢が崩れる・腰痛が出る・バランスが悪くなる原因に。脳腫瘍によって運動制御自体が変化するため、インナーマッスルの再活性化が特に難しい。

出典: Wikimedia Commons / Public Domain
骨盤の底面を「ハンモック」のように覆う筋肉群。主に挙肛筋(恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋・恥骨直腸筋)と尾骨筋から構成。男女共通で存在するが、女性では特に重要。
尿道・直腸・膣(女性)の括約機能・骨盤内臓器の支持・体幹安定(腹横筋・多裂筋と協調)。腹腔内圧を上げるあらゆる動作(咳・くしゃみ・重いもの持ち)で重要。
長期臥床・神経障害・ステロイドにより機能低下。排尿困難・尿漏れ・便秘・腰痛の原因になる。脳腫瘍による神経障害が自律神経系にも影響し、排泄コントロールが難しくなることがある。

出典: Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
ふくらはぎの筋肉。腓腹筋(二頭で膝後面から踵骨へ)とヒラメ筋(腓腹筋の深部)の2筋から成り、アキレス腱につながる。「第二の心臓」とも呼ばれる。
足関節の底屈(つま先立ち・蹴り出し)・歩行の推進力。静脈血を心臓に送るポンプ機能(深部静脈血栓症の予防に重要)。立位バランスの微調整。
臥床による廃用で機能低下。弱ると歩行の蹴り出しが弱くなる・転倒リスクが増す・DVT(深部静脈血栓症)リスクが高まる。術後の動作で特に歩行スピードと持久力に影響。
PTでも「筋肉の大切さ」を身をもって学んだ術後
理学療法士として何人もの患者さんの筋力低下を診てきた私ですが、いざ自分が手術を受けてみると、その実感はまったく別物でした。「立ち上がるときに足に力が入らない」「歩くと体幹がぐらぐらする」——これが廃用性筋萎縮か、と改めて驚きました。
特にびっくりしたのは骨盤底筋です。PT として知識はあっても、自分の骨盤底筋を「感じる」ことがこんなにも難しいとは思いませんでした。排泄コントロールに関わるこの筋肉は、弱くなっても本人が気づきにくい。だからこそ早めに意識することが大切だと、当事者として実感しています。
「どこを鍛えればいいかわからない」という方のために、次の記事では各筋肉の具体的な鍛え方を紹介します。
❓ よくある質問(FAQ)
術後、どれくらいで筋力は戻りますか?
個人差が大きいですが、適切なリハビリを続ければ術後3〜6か月でかなり戻る方が多いです。完全な回復には1〜2年かかることも。神経障害が原因の場合は、神経の回復に時間がかかるため、焦らず継続することが大切です。
ステロイドの影響は止めればなくなりますか?
ステロイド減量・中止後、2〜4週間でステロイド筋症は改善し始めるのが一般的です。ただし筋肉量が落ちた分は自然には戻らないため、リハビリでの再強化が必須。減量は必ず担当医の指示に従ってください(自己判断での中止は危険)。
片麻痺がある場合、6つすべて鍛える必要がありますか?
麻痺の程度・部位によって優先順位は変わります。担当PTが個別の評価をしてオーダーメイドのプログラムを作成します。本記事は一般的な解説なので、自分の状態に合わせるには専門家との相談が必要です。
「使わない筋肉」と「鍛えにくい筋肉」の違いは?
大腿四頭筋など表層の筋肉は意識しやすく鍛えやすい。一方、体幹インナーや骨盤底筋は意識すること自体が難しい。これらは「感じる練習」から始めて、徐々に正しく動かせるようにしていきます。
転倒リスクが心配です。どこから手を付ければ?
転倒予防には大腿四頭筋・中臀筋・腸腰筋・下腿三頭筋がカギ。立ち上がり・骨盤の安定・足の振り出し・蹴り出しの4要素をカバーします。次の記事で具体的な運動を紹介しているので参考にしてください。
食事も筋肉回復に関係ありますか?
大いに関係します。たんぱく質を体重1kgあたり1.0〜1.2g/日を目安に。卵・肉・魚・大豆製品をバランスよく。ステロイド服用中は塩分控えめ・カルシウム・ビタミンDも意識を。詳細は栄養士に相談を。
📋 まとめ——術後に注意したい6つの筋肉
💪 覚えておきたいポイント
- 大腿四頭筋:立つ・歩くの主役。術後最も早く弱りやすく、ステロイドの影響も大きい
- 大臀筋・中臀筋:歩行安定の要。弱ると骨盤が傾き転倒リスクが上がる
- 腸腰筋:「足を前に出す」筋肉。弱るとすり足歩行・つまずきが増える
- 腹横筋・多裂筋:体幹の天然コルセット。弱ると姿勢・腰痛・バランスに直結
- 骨盤底筋群:見えにくいが排泄・体幹安定の土台。排泄トラブルがあれば相談を
- 下腿三頭筋:歩行の蹴り出し力・DVT予防。ベッド上から足首運動で活性化を
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