脳腫瘍退院後にやってはいけないこと6選|回復を遅らせないための注意点

脳腫瘍の手術後、退院できるとほっとされる方も多いでしょう。しかし退院後は、まだ体も脳も完全に回復しているわけではありません。
退院後の生活で無理をすると、強い疲労・転倒・症状の悪化などにつながる可能性があります。
この記事では、脳腫瘍術後の患者さんが退院後に注意したい行動や生活習慣について、PT(理学療法士)でもあるZUNが解説します。
- 退院後に避けるべき6つの行動・習慣
- 「無理な運動」と「過度な安静」どちらもNGな理由
- 転倒を防ぐための自宅環境の整え方
- 日本の法律による運転再開のルール
① 無理な運動や急な活動量の増加
退院後、「早く元の生活に戻りたい」と思い、急に活動量を増やしてしまう人もいます。しかし術後の体には特有の回復プロセスがあります。
術後に無理をしてはいけない主な理由
- 体力が大幅に低下している(手術・入院による廃用)
- 脳がまだ回復の途中にある
- がん性疲労(Cancer-Related Fatigue:CRF)が残っていることがある
無理に動くと、強い疲労・頭痛・めまいが出ることがあります。
運動や活動量は、少しずつ・段階的に増やすことが大切です。ACSM(米国スポーツ医学会)の2019年ガイドラインでも、がんサバイバーの運動は個々の体力・症状に応じた段階的な実施が推奨されています。
② 長時間の安静(動かずにいること)
逆に、動くことが不安で一日中横になってしまうことも問題です。過度な安静は回復を助けるどころか、かえって妨げることがあります。
- 筋力・体力の低下(廃用症候群)
- 深部静脈血栓症(DVT)
- 体力回復の遅れ
- 気力・意欲の低下
- 室内・近所の軽い散歩
- 自宅での簡単な体操
- 家事など日常の軽い活動
- リハビリ専門職の指導のもとで運動
「動きたいけど不安」という方は、退院時に担当の理学療法士や医師にどのくらい動いてよいかを確認しておくと安心です。
③ 睡眠不足や生活リズムの乱れ
脳の回復には睡眠がとても重要です。術後は睡眠の質が低下しやすく、それが回復を遅らせる要因になります。
睡眠不足が続くと起こりやすいこと
- 疲れやすさの増加(疲労感の悪化)
- 集中力・注意力の低下
- 体力・脳機能の回復遅延
- 情緒不安定・気分の落ち込み
- 毎日同じ時間に起き、規則正しい生活リズムを整える
- 昼間に体を適度に動かし、夜の睡眠の質を高める
- 痛みや不安で眠れない場合は遠慮なく主治医に相談する
研究では、術後の睡眠の質と疲労感には密接な関係があることが示されており(Frontiers in Neurosurgery等)、睡眠管理は回復において非常に重要なテーマです。
④ 転倒しやすい行動・環境に身を置く
脳腫瘍術後はバランス障害・麻痺・めまいなどが残ることがあり、転倒リスクが高まります。退院後の「転倒」は骨折や脳への二次的ダメージにつながる可能性があるため、特に注意が必要です。
- 急に立ち上がる
- 手すりを使わない
- 暗い場所を歩く
- 滑りやすいスリッパを履く
- 踏み台や脚立を使う
- トイレ・浴室に手すりを設置
- 室内を整理し通路を広くする
- 滑り止めマットを使用
- 足元が明るくなるよう照明を整える
- 動作時は焦らず、一拍おいて動く
自宅環境が心配な場合は、作業療法士(OT)による家屋環境評価を退院前・退院後に依頼することが可能です。担当ケアマネジャーや病院スタッフに相談してみてください。
⑤ 強い症状が出ても我慢する
退院後に次のような症状が出た場合は、早めに医療機関へ相談することが重要です。「退院したばかりだから仕方ない」と我慢せず、体からのサインを見逃さないようにしましょう。
- 急に強くなる頭痛・今まで経験したことのない頭痛
- 吐き気・繰り返す嘔吐
- けいれん発作(体が震える・意識を失うなど)
- 意識がぼんやりする・呼びかけへの反応が鈍い
- 手足の動きにくさ・麻痺の悪化
- 言葉が出にくい・聞き取りにくい
- 視野が欠ける・ものが二重に見える
これらは脳浮腫・出血・腫瘍再発などの重要なサインである可能性があります。「大げさかな」と思っても、迷ったら受診するという判断が大切です。
⑥ 車の運転を自己判断で再開する
脳腫瘍の手術後は、車の運転をすぐに再開してよいか慎重に判断する必要があります。
術後に運転が危険な理由
- てんかん発作(けいれん)が突然起こる可能性がある
- 視野障害(見えていない範囲がある)
- 注意力・集中力の低下
- 判断力・反応速度の低下
これらが重なると、重大事故につながる可能性があります。
日本では道路交通法により、てんかん発作がある場合は運転免許に制限が設けられています。
運転可能となる目安(公安委員会の判断基準):
- 意識障害・運動障害を伴う発作がある場合:最後の発作から2年間発作がないこと
- 意識障害・運動障害を伴わない単純部分発作のみの場合:1年間発作がないこと
- 睡眠中のみ発作が起きる場合:2年間、睡眠中以外に発作がないこと
※この基準は日本てんかん学会の提言・警察庁の運転免許制度に基づきます。
⚠️ さらに重要:持病(てんかん発作のリスク)があることを知りながら運転して事故を起こした場合、自動車保険が適用されない可能性があります。必ず主治医・保険会社に確認してください。
- 主治医(脳外科・神経内科)に運転再開の可否を相談する
- 必要に応じて運転適性評価(自動車運転リハビリ)を受ける
- 体調・視野・認知機能が安定していることを確認する
私が退院したとき、正直「もう大丈夫だ」という気持ちと、「また倒れたらどうしよう」という不安が同時にありました。
PTとして「過度な安静はよくない」と頭ではわかっていても、実際に自分が患者になると体を動かすことが怖くて、最初の数日は横になりがちでした。一方で「早く動かなければ」と焦って無理をしてしまった日もありました。
退院後の体は、見た目よりずっとデリケートです。「今日は少しだけ動けた」という積み重ねを大切にしてください。焦らなくて大丈夫です。
車の運転については、主治医から「しばらく待って」と言われ、正直つらかったです。でも、もし発作が起きて誰かを傷つけてしまったら…と考えると、待つ判断は正しかったと今は思っています。
- ① 無理な運動・急な活動増加:術後の体は脆弱。段階的に活動量を上げる
- ② 長時間の安静:廃用・血栓のリスクあり。軽い活動を続けることが大切
- ③ 睡眠不足・生活リズムの乱れ:脳の回復に睡眠は不可欠。規則正しい生活を
- ④ 転倒しやすい行動・環境:バランス障害が残ることを前提に安全対策を
- ⑤ 強い症状の我慢:強い頭痛・けいれん・麻痺の悪化は早めに受診を
- ⑥ 運転の自己判断再開:法律・医師の指示に従い、主治医への相談が必須
退院後は「焦らず、でも動き続ける」バランスが大切です。不安なことは担当医・リハビリスタッフに遠慮なく相談しましょう。
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📚 参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス.「脳腫瘍〈成人〉療養」.
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https://www.mdpi.com/2227-9032/13/17/2179 - Rosenbaum S, et al. “Early medical rehabilitation after neurosurgical treatment of malignant brain tumours in Slovenia.” Radiology and Oncology. 2016;50(2).
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https://braintumor.org/news/improving-balance-and-fall-prevention-for-patients-with-brain-tumors/ - 公益社団法人 日本てんかん協会.「てんかんと自動車運転」.
https://www.jea-net.jp/epilepsy/drive - 国立精神・神経医療研究センター(NCNP).「第4回 てんかん発作と自動車運転」.
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/specia/epilepsy-column_4.html - Zucchella C, et al. “Rehabilitation of Adult Patients with Primary Brain Tumors: A Narrative Review.” Brain Sciences. 2020;10(9).
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