脳腫瘍・がんの告知後に不安や落ち込みを感じるのは当たり前?うつへの向き合い方

脳腫瘍・がんの告知後に不安や落ち込みを感じるのは、ごく自然なこころの反応です。この記事では、告知後のこころの変化を理解し、不安やうつと上手に向き合うための具体的な方法をお伝えします。
- 告知後の不安・落ち込みは「弱さ」ではなく正常な反応であること
- 脳腫瘍患者がうつ・不安障害を経験する割合とその理由
- 不安を和らげるための具体的な行動ステップ
- 専門家・周囲のサポートを上手に借りるコツ
💡 結論|不安は抑え込まなくていい
この記事の結論
- 告知後の不安・落ち込みは「こころの正常な反応」であり、弱さではありません
- 脳腫瘍患者の約20〜50%がうつや不安障害を経験するとされています
- 不安を無理に抑えようとすると、かえって自分を追い詰める可能性があります
- 行動を少し変えること+周囲に頼ることの両方が大切です
- 適切なサポートを受けることで、こころの状態は改善していくことが多いです
📊 告知後のこころの変化|どのくらいの人が経験するの?
「こんなにつらいのは自分だけ?」と感じる方も多いかもしれません。でも実際のデータを見ると、多くの患者さんが同じようなこころの変化を経験されていることがわかります。
〜50%
脳腫瘍患者が経験するうつ・抑うつ症状の割合
※複数の研究のレビューによる推定値
58%
脳腫瘍サバイバーで不安障害が見られる割合
※系統的レビュー(PubMed, 2022)
2か月
告知後、うつ症状がピークを迎えやすい時期
※CareNet 医療ニュース報告
脳腫瘍は、他のがんと比べてもこころへの影響が大きい傾向があるとされています。腫瘍が脳そのものにできることで、感情のコントロールや思考に直接影響が出やすいためと考えられています。「自分がおかしいのでは」と思わなくて大丈夫です。多くの方が同じ経験をされています。
「笑っても泣いても、同じ1日」——グレード3の告知を受けたあの日
術後1か月の診察が、突然の電話で繰り上がりました。「良性の所見」と聞いていたはずが、診察室で「悪性星細胞腫(あくせいせいさいぼしゅ)グレード3」と告げられた瞬間、頭が真っ白になりました。
帰りの車の中で、妻と二人で号泣しました。理学療法士として医療の知識があったぶん、「グレード3」という言葉の意味をわかりすぎるくらいわかっていて、それがかえってつらかったです。
帰宅後は何日も、「グレード3でも寛解した例」をひたすら検索し続けました。娘の無邪気な笑顔を見るたびに涙が溢れ、「この子の成長を見届けられるだろうか」という思いが頭を離れませんでした。
でも、そんな日々の中でふと気づいたことがあります。「泣いて過ごしても、笑って過ごしても、同じ1日。」この言葉が、私の中で何かを変えてくれました。絶望しながらも、家族と過ごす時間を大切にしようと決意できた瞬間でした。
告知直後の「ショック→否認→怒り→悲しみ」という感情の波は、がんの領域では「がんの心理的適応プロセス」と呼ばれ、多くの患者さんに共通して見られるとされています。このプロセスは弱さではなく、こころが大きなショックに適応しようとしている証でもあります。
⚠️ 「不安を感じてはいけない」は逆効果かもしれません
「不安に思ってはダメだ」「家族を心配させてはいけない」と自分に言い聞かせている方も多いのではないでしょうか。私もそうでした。でも、不安を無理に抑え込もうとすると、かえってこころへの負担が大きくなることがあります。
| 不安を抑え込もうとしたとき | 不安と向き合ったとき |
|---|---|
| 気力・体力が消耗しやすい | こころのエネルギーが少し回復しやすい |
| 孤独感が強まりやすい | 周囲との関係が保ちやすい |
| 身体症状(不眠・食欲不振)に出やすい | 身体への影響が和らぎやすい |
| 「自分だけがつらい」と感じやすい | 「同じ経験をした人がいる」と気づけやすい |
国立がん研究センターのサイトでも、「気持ちが動揺したときに、無理に抑え込もうとせず、まわりの人に援助を求めることが大切」とされています。抑え込まなくていい。感じていい。それが第一歩です。
🪜 不安・落ち込みと向き合うための5ステップ
「不安を感じている自分」を責めない
まずここから始めてください。不安・落ち込みは異常ではなく、こころが正直に反応しているサインです。「こんなことで落ち込むなんて」ではなく、「それだけ真剣に向き合っているんだ」と自分を見てあげてください。
気持ちを言葉にして「外に出す」
日記に書く、信頼できる人に話す、どちらでも構いません。私は妻に「怖い」「不安だ」と素直に言えたことで、少し楽になりました。言葉にすることで、漠然とした不安が具体的になり、少し扱いやすくなることが多いです。
「今日、自分にできること」だけに集中する
再発のリスクや先のことを考えすぎると、不安は雪だるまのように大きくなる傾向があります。「今日の治療を受ける」「今日の食事をしっかり食べる」など、今日一日の小さな行動に意識を向けることが助けになりました。
専門家のサポートを遠慮なく使う
「精神科・心療内科は敷居が高い」と感じる方も多いかもしれません。でも、がん診療連携拠点病院には「精神腫瘍科(サイコオンコロジー)」や「緩和ケアチーム」が設置されていることが多く、こころのケアを専門に担当しています。受診することは弱さではなく、賢い選択だと思います。
同じ経験をした仲間とつながる
患者会・患者サロン・オンラインコミュニティでは、同じ経験をした方と気持ちを分かち合うことができます。「自分だけじゃなかった」という感覚は、思った以上にこころを支えてくれます。
🤝 周囲への頼り方|「迷惑をかけたくない」という気持ちへ
「家族に心配をかけたくない」「職場に申し訳ない」——こういう気持ちを抱えていませんか?私もずっとそう思っていました。でも、周囲に頼ることは、相手にとっても「役に立てた」という安心感につながることがあります。
周囲へ頼りやすくなるためのヒント
- 「助けてほしいこと」を具体的に伝える(例:「買い物を代わりにしてもらえる?」)
- 「今日は話を聞いてほしいだけ」とリクエストする
- 担当医や看護師に「気持ちが落ち込んでいる」と伝えてみる
- 医療ソーシャルワーカー(MSW)に生活上の相談をしてみる
- 患者サポートセンターや相談窓口を利用する
私が第9話で書いたように、職場への復帰も「シフト調整・同僚の配慮・上司との面談」という周囲のサポートがあって初めて可能になりました。頼ることは、自分を守ることでもあります。
❓ よくある疑問
不安が強くて眠れません。受診すべきですか?
2週間以上、不眠・食欲不振・強い落ち込みが続いている場合は、医師や緩和ケアチームへの相談をお勧めします。「精神科に行くほどでもないかも」と思いがちですが、がん診療連携拠点病院であれば、がん患者向けのこころのサポートが受けられます。一人で抱え込まないでください。
家族が落ち込んでいます。どう接したらいいですか?
「頑張れ」よりも「つらいよね」と気持ちを受け止める言葉が助けになることが多いです。解決策を提示しようとするよりも、まず「聴く」ことを大切にしてみてください。また、家族自身も無理をしすぎないことが重要です。
抗うつ薬や精神科の薬はがん治療に影響しますか?
薬の種類によっては相互作用が生じる可能性があるとされています。必ず腫瘍内科または担当医に相談した上で、精神科・心療内科を受診することをお勧めします。最近は精神腫瘍科の専門医がいる施設も増えてきています。
告知後どのくらいで気持ちは落ち着くの?
個人差が大きく、「○か月で必ず落ち着く」とは言えません。多くの研究では、告知後2〜3か月が最もつらい時期とされることが多いです。時間とサポートによって、ほとんどの方は少しずつ適応していくとされています。焦らなくて大丈夫です。
📝 まとめと次のアクション
この記事のまとめ
- 脳腫瘍・がんの告知後に不安・落ち込みを感じるのは、こころの正常な反応です
- 脳腫瘍患者では特にうつ・不安障害の割合が高いとされており、あなただけではありません
- 不安を無理に抑え込もうとすると、かえってこころへの負担が増すことがあります
- 「感じていい」→「言葉にする」→「今日にフォーカスする」→「専門家・仲間に頼る」のステップを試してみてください
- 周囲に頼ることは弱さではなく、こころと体を守るための大切な選択です
次のアクション:まず今日、信頼できる誰か一人に「最近しんどい」と伝えてみてください。それだけで、少しこころが軽くなることがあります。もし2週間以上つらい状態が続くようであれば、担当医や緩和ケアチームへの相談も選択肢のひとつです。あなたも、きっと自分なりのペースで歩んでいけると思います。
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📖 参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」. https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」. https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc03.html
- Huang J, et al. “Association between depression and brain tumor: a systematic review and meta-analysis.” Oncotarget. 2017. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5706925/
- Vehling S, et al. “Psychiatric comorbidities in cancer survivors across tumor subtypes: A systematic review.” Cancer Med. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35582337/
- GBD 2019 Cancer Collaborators. “Global prevalence and determinant factors of pain, depression, and anxiety among cancer patients.” BMC Cancer. 2025. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11841195/
- 明智龍男「がん患者のうつ病・うつ状態」現代医学 69巻2号 2022年.
- 日本精神神経学会「明智龍男先生に『がん患者の精神的ケア』を訊く」. https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=42
- CancerNet Japan「告知を受けてから〜治療を決心するまで」. https://www.cancernet.jp/seikatsu/mind/mental/decision/
- 日本精神腫瘍学会「がん患者さんとご家族のこころのサポートチーム」. https://support.jpos-society.org/manual/
- Niedzwiedz CL, et al. “A systematic review of risk factors associated with depression and anxiety in cancer patients.” Psychooncology. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38551956/
- 厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ」. https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/
- Mitchell AJ, et al. “Prevalence of depression, anxiety, and adjustment disorder in oncological, haematological, and palliative-care settings: a meta-analysis of 94 interview-based studies.” Lancet Oncol. 2011. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21251875/










