⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。退院後のケアは必ず担当医師の指示を最優先にしてください。

「退院できた!でも、自宅で何に気をつければいいの…?」
そんな不安を感じているあなたへ。傷口・血圧・服薬・食事・活動の5つを押さえれば、自宅での回復はぐっと安心になります。

📋 このページでわかること
  • 術後の傷口(創部)を自宅で安全に管理する方法と感染のサイン
  • 脳腫瘍術後に血圧管理が重要な理由と、自宅での測定・対処法
  • 回復を助ける食事・栄養のポイントと、服薬を確実に続けるコツ
  • 退院後の活動・疲労のコントロール方法(週ごとの目安)
  • ZUN自身の退院後の体験(創部感染・自主リハビリ

脳腫瘍の手術・入院を乗り越えて、いよいよ退院——でも「退院後、自宅で何に気をつければいいの?」という不安は大きいはずです。特に傷口の管理、血圧の変動、食事、服薬は退院直後から自分で対応しなければならない重要なセルフケアです。

この記事では、PT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーのZUNが、退院後に自宅でできるセルフケアを「傷口・血圧・食事・服薬・活動」の5領域に分けて、実体験を交えながら解説します。

🩹 ① 術創部(傷口)のケア

開頭手術後の傷口は、退院時点でまだ完全には治癒していません。自宅での適切なケアが感染予防につながります。

退院後の創部ケア基本ルール
  • 1 毎日の観察習慣をつける

    鏡を使って傷口を毎日確認します。「赤み・腫れ・熱感・滲出液(しんしゅつえき:傷口からにじみ出てくる液体)・においの変化」がないか確かめましょう。鏡で見えにくい場合は家族に協力してもらうのがおすすめです。

  • 2 シャワー・洗髪のタイミング

    抜糸(ばっし:縫合した糸を取り除くこと。術後7〜14日目が多い)が完了し、担当医から許可が出てから洗髪を始めます。シャワーは低刺激のシャンプーで、傷口を優しく洗い流す程度に。ゴシゴシこすらないようにします。

  • 3 清潔を保つ・触らない

    傷口を不必要に触らない、清潔でない手で触らないことが大切です。市販の傷テープ(退院時に処方された場合)の貼り替え方法は、退院指導の内容に従います。

🚨 すぐに受診すべき感染サイン 以下のような症状が出た場合は、早めに担当医に連絡・受診してください。
・傷口から液体(透明・黄色・膿)が出てくる ・傷口周囲が明らかに赤く腫れている
・傷口に強い熱感がある ・38度以上の発熱が続く ・傷口から悪臭がする
🌿 ZUN体験談|第7話より

「退院後に縫合糸が感染。毎日滲出液が垂れてきた実体験」

私は退院後しばらくして、頭の傷口の中に残っていた縫合糸が感染し、常に滲出液が傷口から垂れてくる状態になりました。

最初は「大丈夫だろう?」と様子を見ていましたが、数日続いたため受診すると「縫合糸感染」と診断。外来で局所麻酔をして縫合糸を摘出する処置を受けました。局所麻酔をしましたが痛みを伴い、頭の上で処置をされるので恐怖を感じました。「もっと早く受診すればよかった」と反省しています。

傷口の異変は「大げさかな」と思っても早めに相談するのが正解です。PTとしても、退院後の創部観察は毎日の習慣にすることを強くおすすめします。

👉 第7話「標準治療開始」を読む

💊 ② 服薬管理|抗てんかん薬・ステロイドを確実に

退院後も複数の薬を継続することが多く、飲み忘れや自己中断が大きなリスクになります。

薬の種類役割注意点
抗てんかん薬(レベチラセタム・フェニトインなど)術後てんかん発作の予防・抑制自己中断は発作再発のリスク。血中濃度の管理が重要。眠気・ふらつきに注意
ステロイド(デキサメタゾンなど)脳浮腫(脳のむくみ)の軽減急に中断しない(漸減:少しずつ量を減らすスケジュールを厳守)。血糖・血圧・胃腸に影響することがある
抗凝固薬・抗血小板薬(血が固まるのを抑える薬)血栓(けっせん:血管内で血が固まること)予防出血に注意。転倒・打撲時は医師に報告を
制吐薬・整腸薬(吐き気を抑える薬など)放射線・化学療法の副作用対策症状に合わせて使用。副作用が強い場合は医師に相談
💡 服薬を確実に続けるコツ ①ピルケース(1週間分)を活用して「飲んだか分からない」を防ぐ。②スマートフォンのアラームを服薬時間にセット。③家族と服薬状況を共有する。抗てんかん薬は血中濃度が安定していることが重要なので、毎日同じ時間帯に服用するのが理想的です。

🩺 ③ 血圧・バイタルの自己管理

脳腫瘍術後は高血圧が再出血・脳浮腫悪化のリスク因子になるため、自宅での血圧管理が重要です。特に術後1〜3か月は意識的に計測する習慣をつけましょう。

自宅での血圧測定ポイント
  • 1 1日2回・同じ時間帯に測定する

    朝(起床後1時間以内・食前・服薬前)と夜(就寝前)の2回が基本です。測定前は5分間安静にし、腕帯を心臓と同じ高さに。測定値は記録しておきましょう(手帳・スマートフォンアプリ)。

  • 2 目標値と受診の目安を確認する

    担当医から「収縮期血圧〇〇mmHg以下を保つように」などの指示が出ている場合はそれを最優先にしてください。一般的な目安として、収縮期血圧(「上の血圧」)が160mmHgを超える状態が続く場合は医師に相談することが推奨されます。

  • 3 血圧を上げない生活習慣

    塩分制限(1日6g未満が目安)・十分な睡眠・過労・過度な力み(重い荷物・排便時のいきみ)を避ける・入浴は低温ゆっくりなど。特にステロイド服用中は血圧が上昇しやすいため注意が必要です。

🚨 すぐに救急受診すべきバイタル異変 ・激しい頭痛が突然起きた ・意識がぼんやりする・混乱する ・手足の麻痺・しびれが急に悪化した
・視野が急に見えなくなった ・言葉が急に出なくなった ・てんかん発作が起きた
これらは脳出血・脳浮腫悪化のサインの可能性があります。迷わず救急車を呼んでください。

🥗 ④ 食事・栄養管理

脳の回復には適切な栄養補給が欠かせません。特別な「脳に効く食事」というものはありませんが、バランスの良い食事・十分なたんぱく質・水分補給が術後回復の基本です。

🥩 たんぱく質

  • 傷の修復・筋力回復に必要
  • 肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を毎食取り入れる
  • 食欲がなければプロテインドリンクも選択肢

🫐 抗酸化食品

  • 脳の炎症を和らげる効果が期待される
  • 緑黄色野菜・ベリー類・ナッツ・魚(DHA・EPA)
  • 過度なサプリメント依存は避ける

💧 水分補給

  • 脱水は脳機能低下・血栓リスクを高める
  • 1日1.5〜2Lが目安(医師の指示に従う)
  • 抗てんかん薬服用中は特に水分補給を意識

🍚 カロリー・塩分

  • ステロイド服用中は食欲増進・体重増加に注意
  • 塩分制限(血圧管理)を意識した献立
  • 過度な制限より「続けられる食事」が大切
⚠️ 嚥下(飲み込み)に不安がある方へ 術後に「飲み込みにくい・むせやすい」という嚥下障害が残っている場合は、食事形態(とろみ・刻み食など)を担当のST(言語聴覚士)と相談しながら決めていきましょう。無理な食事形態は誤嚥性肺炎のリスクになります。

🏃 ⑤ 活動・疲労の管理

退院後の体は見た目以上に消耗しています。「元気になった気がする」と感じても、脳疲労(Brain fatigue)は自覚しにくく、知らずにオーバーペースになりがちです。週ごとのおおよその目安を参考にしてください。

退院後の時期活動の目安注意点
〜2週間室内歩行・短時間の外出(10〜15分)。疲れたら横になる。転倒に注意。段差・滑りやすい床を確認。運転は医師許可まで禁止
2週間〜1か月散歩を少しずつ延ばす(〜30分)。家事の軽作業を少量再開。無理は禁物。翌日に疲労が残るようなら活動量を落とす
1〜3か月体力に応じて活動量を増やす。外来リハビリ・軽い有酸素運動。追加治療(放射線・抗がん剤)との並行が多い。副作用で疲労が増すことも
3か月以降社会復帰・職場復帰を段階的に検討。担当医と相談しながら進める。高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能などの低下)が残る場合はOTに相談
💡 脳疲労(Brain fatigue)とは? 脳腫瘍術後・放射線治療後に多く見られる「極度の疲れやすさ」です。身体的な疲労とは異なり、会話・読書・画面を見るといった認知活動でも急激に疲弊します。「怠けているのでは」と自分を責める必要はありません。疲れたら休む、活動と休息を繰り返す「ペーシング」が回復への近道です。
🌿 ZUN体験談|第4話より

「PTだからこそ知っていた。退院翌日から”動く”ことの意味」

退院後、左手足の動きが低下していた私は、PTとして「早く動くことが回復を早める」という知識を持っていたので、自宅でも毎日自主トレーニングを続けました。ゴルフボールを握る・おはじきを掴む・粘土で指を動かす、そういった地味な練習を繰り返しました。

でも同時に、立ちくらみや感情のコントロールが難しい時期が1〜2か月続きました。「今日は調子がいい」と思ってやりすぎると、翌日は疲れて動けない日もありました。脳疲労は本当に厄介で、「やりたい気持ち」と「体の限界」のバランスを取るのが一番難しかったです。

結局、「昨日より少しだけ動ける」を積み重ねること——それが退院後の回復の本質だと実感しています。焦らず、でも止まらずに続けることが大切です。

👉 第4話「術後後遺症・リハビリ」を読む

🧠 ⑥ 精神的なセルフケア・家族へのサポート

退院後は「再発への不安」「社会への焦り」「家族への申し訳なさ」など、精神的な負荷が大きい時期です。これはがんサバイバーに非常に多く見られる正常な反応であり、一人で抱え込む必要はありません。

😌 本人へ

  • 「不安を感じること」は正常な反応
  • がん相談支援センター・心理士への相談
  • 同じ境遇の患者会・コミュニティへの参加
  • 毎日の小さな成功体験を記録する(日記)

👨‍👩‍👧 家族へ

  • 「元気そうに見えても疲れている」ことを理解する
  • 介護者自身の休息も大切(共倒れ防止)
  • 服薬・外来通院のサポートは積極的に
  • 感情の変化(怒りっぽさ・涙もろさ)は脳の影響の場合も

📋 退院後セルフケア・毎日チェックリスト

毎朝30秒で確認できるチェックリストです。印刷して玄関や洗面所に貼っておくのもおすすめです。

  • 傷口の観察(赤み・腫れ・液体・においの確認)
  • 朝の血圧測定・記録
  • 朝の服薬(抗てんかん薬・ステロイドなど)完了
  • 水分補給(コップ1杯の水を飲む)
  • 今日の活動計画を立てる(無理しない量で)
  • 疲労感・めまい・手足のしびれなどの異変確認
  • 就寝前の血圧測定・記録
  • 夜の服薬完了

❓ よくある質問

退院後、どのくらいで日常生活に戻れますか?

個人差が大きく、腫瘍の部位・術後の後遺症・追加治療の内容によって異なります。多くの場合、退院後1〜3か月で日常の基本動作(家事・軽い外出)は可能になりますが、仕事復帰・運転再開には医師の許可が必要です。焦らず主治医と相談しながら段階的に進めましょう。

入浴・シャワーはいつからOKですか?

一般的には抜糸後(術後7〜14日目)に担当医から許可が出ることが多いです。ただし施設・術式・術後経過によって異なるため、退院時の指導内容を確認し、不明な場合は主治医に問い合わせてください。湯船への長時間入浴は、のぼせ・血圧変動のリスクがあるため最初はシャワーが安全です。

薬を飲み忘れたらどうすればいいですか?

薬の種類によって対応が異なります。特に抗てんかん薬は自己判断で「2回分まとめて飲む」のは危険です。気がついたタイミング・薬の種類ごとに飲み方が異なるため、退院時に担当医または薬剤師に「飲み忘れた場合の対処法」を確認しておきましょう。

頭痛が続いています。受診すべきですか?

術後の軽度な頭痛は比較的よくみられますが、「突然の激しい頭痛」「今まで経験したことがないレベルの頭痛」「嘔吐・意識の変化を伴う頭痛」は脳出血・脳浮腫悪化のサインの可能性があり、すぐに受診が必要です。迷った場合は担当医に相談することをおすすめします。

運転はいつから再開できますか?

脳腫瘍術後は、てんかん発作リスクの観点から、道路交通法により一定期間の運転禁止が必要な場合があります。医師の診断書が必要で、「2年間発作がない」などの条件をクリアする必要があります。絶対に医師の許可なしに運転を再開しないでください。

📝 まとめ

退院後セルフケアの要点

  • 傷口は毎日観察。赤み・腫れ・液体・においの変化があれば早めに受診
  • 服薬は自己中断NG。ピルケース+アラームで飲み忘れを防ぐ
  • 血圧は朝晩2回測定・記録。高血圧は術後合併症のリスク因子
  • 食事はたんぱく質・水分・塩分管理の3本柱。「続けられる食事」が大切
  • 活動は「昨日より少しだけ多く」を積み重ねる。脳疲労は見えにくいので無理しない
  • 精神的な不安や家族の負担も大切。がん相談支援センター・患者会を積極的に活用して

退院後の毎日は、小さなセルフケアの積み重ねです。「完璧にやらなきゃ」と気負わなくて大丈夫。できることからひとつずつ。ZUNも同じ道を歩んで、今があります。

📚 参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「脳腫瘍〈成人〉 治療」. https://ganjoho.jp/public/cancer/brain_adult/treatment.html
  2. 日本脳腫瘍学会「脳腫瘍診療ガイドライン 成人脳腫瘍編 2024年版 第3版」. 金原出版. 2024.
  3. 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 2019」. https://www.jpnsh.jp/guideline.html
  4. SURVIVORSHIP.JP「がんサバイバーシップ」. https://survivorship.jp/
  5. Johns Hopkins Medicine. “Brain Tumor Surgery — Recovery.” https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/brain-tumor/brain-tumor-surgery
  6. National Brain Tumor Society. “Recovery from Brain Surgery.” https://braintumor.org/brain-tumors/diagnosis-treatment/stages-of-treatment/after-surgery-before-treatment/recovery-from-brain-surgery/
  7. Salander P, et al. “Living with a malignant brain tumour.” Palliative Medicine. 1996;10(2):103-110. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8800225/
  8. Gehring K, et al. “Cognitive rehabilitation in patients with gliomas.” Lancet Neurology. 2017;16(9):748-760. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28774401/
  9. Stupp R, et al. “Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma.” NEJM. 2005;352(10):987-996. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15758009/
  10. Mayo Clinic. “Brain tumor — Diagnosis and treatment.” https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/brain-tumor/diagnosis-treatment/drc-20350088
  11. 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
  12. Henriksson R, et al. “Postoperative care of the brain tumor patient.” Neurooncology Practice. 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29770236/
⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。退院後のケアは必ず担当医師の指示を最優先にしてください。

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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/