⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが作成した情報提供記事です。運動の開始・内容・強度は必ず担当医や理学療法士にご確認ください。痛みや強い疲労があるときは無理せず中止してください。
← 前の記事(先にこちらをお読みください)
脳腫瘍の術後に弱りやすい6つの筋肉——なぜ動けなくなる?PT(理学療法士)が解説
💪 この記事でわかること
  • 6つの筋肉それぞれの、自宅でできるリハビリ運動(各2〜3種)
  • 各運動の強度・回数・頻度の目安(PT監修)
  • 痛みや疲労が出たときの対処法・注意点
  • 1週間の運動スケジュール例
⚠️ 運動を始める前に必ず確認してください
⚠️ 以下の場合は運動を避け、主治医・PTに相談してください
  • 術後まだ安静が必要な時期(担当医の許可前)
  • 強い頭痛・めまい・吐き気があるとき
  • 発熱(37.5℃以上)があるとき
  • 運動中に手足のしびれ・脱力が急に強くなったとき
  • 骨や関節に痛みがあるとき(ステロイドによる骨粗鬆症に注意)
  • 深部静脈血栓症(DVT)の診断・疑いがあるとき

以下の運動は「座位・臥位から始められる低負荷のもの」を中心に選んでいます。退院直後や体力が落ちている時期でも取り組みやすい内容です。徐々に回数・強度を上げていきましょう。

🦵 1. 大腿四頭筋(太ももの前)を鍛える
1
🦵 大腿四頭筋 立つ・歩くの主役
大腿四頭筋 解剖図
出典: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
太ももの前面にある最大筋群。立ち上がり・歩行・階段動作のすべてに関わります。術後最も早く弱りやすく、ここを鍛えることが日常生活回復の第一歩です。
💡 目標:椅子から手を使わずに立ち上がれる → 5回連続を目標に
A
座位での膝伸展(シーテッド・レッグエクステンション)
🪑 椅子に座って 🟢 低負荷 術後早期から可
  1. 椅子に深く座り、背もたれに背中をつける
  2. 片方の足をゆっくり水平まで上げ、膝を完全に伸ばす
  3. 2〜3秒キープして、ゆっくり下ろす
  4. 左右交互に行う
🔁 回数:左右各10回×2〜3セット
📅 頻度:毎日または1日おき
💪 強度目安:やや頑張れる程度(10段階で5〜6)
足を上げるときに腰が曲がらないよう注意。股関節に痛みがある場合は中止してください。
B
椅子スクワット(立ち座り運動)
🪑 椅子使用 🟡 中等度 日常動作の練習
  1. 椅子の前端に浅く座り、両手を膝の上に置く
  2. 体をやや前傾させ、お尻を持ち上げるようにゆっくり立ち上がる(3秒かけて)
  3. 完全に立ったら1秒止まる
  4. ゆっくり3秒かけて椅子に戻る(ドスンと座らない)
🔁 回数:5〜10回×2セット
📅 頻度:1日おき(休息も大切)
💪 強度目安:少し息が上がる程度
膝が内側に入らないよう注意(つま先と同じ方向に向ける)。最初は手すりや壁を使って安全に行ってください。
🍑 2. 大臀筋・中臀筋(お尻の筋肉)を鍛える
2
🍑 大臀筋・中臀筋 歩行安定・骨盤保持
中臀筋 解剖図
出典: Wikimedia Commons / Public Domain
お尻の筋肉。特に中臀筋が弱ると歩くときに体が横に傾きます。骨盤を水平に保ちながら歩くために欠かせない筋肉です。
💡 目標:片脚で10秒以上バランスを保てる → 転倒予防に直結
A
ブリッジ(仰向けお尻上げ)
🛏️ 臥位で行う 🟢 低負荷 大臀筋メイン
  1. 仰向けに寝て、膝を曲げて足を床につける(足幅は腰幅)
  2. お尻をゆっくり持ち上げ、肩〜膝が一直線になるまで上げる
  3. 3〜5秒キープする(お尻を絞るイメージで)
  4. ゆっくり下ろす
🔁 回数:10〜15回×2〜3セット
📅 頻度:毎日可能
💪 強度:低〜中
首に痛みがある場合は行わないでください。腰を上げすぎないよう注意。
B
横向き脚上げ(サイドライイング・レッグレイズ)
🛏️ 横向き寝で 🟢 低負荷 中臀筋メイン
  1. 横向きに寝て、体が一直線になるよう揃える
  2. 上の足をまっすぐのまま、床から約30〜40cm上げる(つま先は正面を向く)
  3. 2〜3秒キープしてゆっくり下ろす
  4. 左右10回ずつ行う
🔁 回数:左右各10〜15回×2セット
📅 頻度:1日おき
💪 強度:低〜中
🚶 3. 腸腰筋(股関節屈曲)を鍛える
3
🚶 腸腰筋 足を前に出す・すり足防止
腸腰筋 解剖図
出典: Wikimedia Commons / Public Domain
股関節の前側にある深層筋。「足を前に振り出す」動作の主役で、すり足歩行やつまずきの予防に直結します。座ったままでも効果的に鍛えられます。
💡 目標:歩くときに足が自然に前に出せる → 歩幅が広がる
A
座位での膝上げ(ニーレイズ)
🪑 椅子に座って 🟢 低負荷 術後早期から
  1. 椅子に座り、背筋を伸ばす(背もたれに頼りすぎない)
  2. 片膝をゆっくりお腹の方向に引き上げる(太ももが床と水平以上になるまで)
  3. 2〜3秒キープする
  4. ゆっくり下ろす。反対側を行う
🔁 回数:左右各10〜15回×2セット
📅 頻度:毎日
B
立位での足踏み(ハイニーマーチ)
🧍 立って行う 🟡 中等度 歩行パターンの再学習
  1. 壁や手すりを持ち、しっかり立つ
  2. ゆっくり片足を高く上げる(膝が腰の高さまで来るのが理想)
  3. そのまま1〜2秒止める
  4. ゆっくり下ろして、反対の足を上げる。交互にリズムよく行う
🔁 回数:左右交互20歩×2セット
📅 頻度:1日おき
バランスが不安な場合は必ず支持物を使ってください。
🏋️ 4. 腹横筋・多裂筋(体幹インナー)を鍛える
4
🏋️ 腹横筋・多裂筋 体幹の天然コルセット
腹横筋 解剖図
出典: Wikimedia Commons / Public Domain
体の深部にある「コルセット筋」。外からは見えませんが、姿勢・腰痛・バランスに直結します。強い力は必要なく、「意識して活性化する」ことが大切です。
💡 コツ:「お腹を薄くして体の中心を引き締める」感覚を掴む
A
ドローイン(腹横筋の活性化)
🛏️ 臥位・座位どちらでも 🟢 最低負荷 術後早期から
  1. 仰向けに寝て(または椅子に座って)リラックスする
  2. 鼻からゆっくり息を吸う
  3. 口から息を細く吐きながら、おへその下を「背骨の方向へ」ゆっくり引き込む(10秒以内で)
  4. 息を止めずに5〜10秒キープする
  5. ゆっくりお腹を元に戻す
🔁 回数:10回×2〜3セット
📅 頻度:毎日(朝・夜)
ポイント:お腹全体を膨らませるのではなく「細く引き込む」
B
バードドッグ(体幹安定+四肢協調)
🧎 四つ這い 🟡 中等度 多裂筋も同時に活性化
  1. 四つ這い姿勢になる(手首が肩の真下・膝が股関節の真下)
  2. ドローインで体幹を固める
  3. 右腕を前に・左脚を後ろに同時にゆっくり伸ばす(体が傾かないよう注意)
  4. 3〜5秒キープしてゆっくり戻す
  5. 反対側(左腕・右脚)を行う
🔁 回数:左右各5〜10回×2セット
📅 頻度:1日おき
体が大きく傾く場合は、まず片腕のみ・片脚のみから始めてください。手首に痛みがある場合は行わないでください。
🌸 5. 骨盤底筋群を鍛える
5
🌸 骨盤底筋群 排泄コントロール・体幹の土台
骨盤底筋群 解剖図
出典: Wikimedia Commons / Public Domain
骨盤の底を支える筋肉群。「どこを動かすか分かりにくい」のが特徴ですが、排尿・排便のコントロールと体幹安定に欠かせません。静かに・集中して行う練習が効果的です。
💡 コツ:「おしっこを途中で止める」感覚で締める(実際には排尿中は行わない)
A
ケーゲル体操(骨盤底筋トレーニング)
🛏️ 臥位・座位・立位どれでも 🟢 最低負荷 術後早期から
  1. リラックスした姿勢をとる(仰向け・座位・立位のいずれでも可)
  2. 「肛門・膣(女性)・尿道」を同時に「上・内向きに」締める(お尻・太もも・お腹には力を入れない)
  3. 3〜5秒キープする(最終的に10秒を目標に)
  4. ゆっくり完全に力を抜く(この「緩める」動作も重要)
  5. 10秒休んで繰り返す
🔁 回数:10〜15回×3セット
📅 頻度:毎日(朝・昼・晩)
継続が大切:効果が出るまで4〜6週間かかります
排尿中に途中で止める練習は行わないでください(尿路感染リスク)。尿漏れが改善しない場合は骨盤底専門PTに相談を。
B
クイックフリック(速い収縮で反応性を高める)
🟢 低負荷 咳・くしゃみ対策に
  1. 骨盤底筋を意識する(ケーゲル体操の感覚を思い出す)
  2. 「ギュッ・パッ・ギュッ・パッ」と素早く収縮・弛緩を繰り返す(1秒ごとに)
  3. 10回1セット。完全に緩める休憩を入れる
🔁 回数:10回×2〜3セット
📅 頻度:毎日
効果:咳・くしゃみ時の瞬間的な尿漏れ予防
🦶 6. 下腿三頭筋(ふくらはぎ)を鍛える
6
🦶 下腿三頭筋 歩行の蹴り出し・DVT予防
下腿三頭筋 解剖図
出典: Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
ふくらはぎの筋肉。歩くときの蹴り出し力と、血液を心臓へ送り返すポンプ機能を担います。術後早期からベッドで動かせる筋肉でもあります。
💡 術後すぐから始められる:仰向けでの足首運動でDVT予防にも
A
足首の底背屈運動(アンクルポンプ)
🛏️ 臥位・座位 🟢 最低負荷 DVT予防・術後即日から
  1. 仰向け(またはベッドに座って)、足を伸ばした状態にする
  2. つま先を「上・下」にゆっくり動かす(底屈→背屈→底屈の繰り返し)
  3. 「上げる・下げる」を1秒ずつ行う
  4. 両足同時でも交互でもOK
🔁 回数:20〜30回×数回/日
📅 頻度:術後から毎日(起床時・就寝前にも)
💪 DVT予防効果:ふくらはぎのポンプで血栓リスクを下げます
B
カーフレイズ(つま先立ち運動)
🧍 立位 🟡 中等度 歩行の蹴り出し強化
  1. 壁や手すりに軽く手を添えて立つ
  2. かかとをゆっくり上げる(つま先立ち)・3秒かけて上げる
  3. 最高点で1〜2秒止める
  4. ゆっくり3秒かけてかかとを下ろす
🔁 回数:10〜15回×2〜3セット
📅 頻度:毎日〜1日おき
💪 応用:慣れたら片足で行う
バランスが不安な場合は両手で手すりをしっかり持ってください。転倒に十分注意してください。
📅 1週間の運動スケジュール例

以下はあくまでも参考例です。体の状態・疲労感に合わせて柔軟に調整してください。

📅 退院後〜1ヶ月の週間スケジュール例
曜日メイン運動毎日続ける運動
月曜日大腿四頭筋(A・B)+中臀筋(A)アンクルポンプ・ドローイン・ケーゲル
火曜日(軽めの日)腸腰筋 A + ドローインアンクルポンプ・ケーゲル
水曜日体幹インナー(A・B)+中臀筋(B)アンクルポンプ・ドローイン・ケーゲル
木曜日(休息日)散歩5〜10分のみアンクルポンプ・ケーゲル
金曜日大腿四頭筋(A・B)+腸腰筋(B)アンクルポンプ・ドローイン・ケーゲル
土曜日カーフレイズ+バードドッグアンクルポンプ・ケーゲル
日曜日完全休養(またはゆっくりストレッチのみ)アンクルポンプ・ケーゲル
🧑‍⚕️
ZUNより(脳腫瘍サバイバー・理学療法士PT) 「できない」より「今日はここまでできた」を積み重ねる

PTとして患者さんに「回数より継続」と伝えてきましたが、自分が患者になって改めてその意味を理解しました。術後は、椅子スクワットを数回するだけで翌日に疲労感が残りました。「これで本当に回復するのか」と不安になることも。

でも神経可塑性の原則(第3回記事)でも紹介したとおり、脳と筋肉は少しずつの積み重ねで変わります。1日5回でも10回でも、毎日続けることで2週間後・1ヶ月後には確実に変化が現れます。

特に骨盤底筋のケーゲル体操は、「地味で効果が感じにくい」ですが、4週間続けた頃から「尿のキレがよくなった。」という気づきがありました。ぜひ根気よく続けてください。

⚠️ 本記事の運動はあくまでも参考情報です。個人の回復状態・術後の状態・合併症によって適切な運動は異なります。必ず担当医・理学療法士にご相談のうえ、安全な範囲で行ってください。
📚 参考文献
  1. Schmitz KH, et al. “Exercise Guidelines for Cancer Survivors: Consensus Statement from International Multidisciplinary Roundtable.” PMC8576825. Med Sci Sports Exerc. 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8576825/
  2. Blanchard CM, et al. “Initiating Exercise Interventions to Promote Wellness in Cancer Patients and Survivors.” PMC6361522. Oncologist. 2018. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6361522/
  3. Stout NL, et al. “Resistance Training for Patients with Cancer: A Conceptual Framework for Maximizing Strength, Power, and Functional Mobility.” PubMed36175646. Semin Oncol Nurs. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36175646/
  4. Strasser B, et al. “Resistance Exercise and Skeletal Muscle-Related Outcomes in Patients with Cancer: A Systematic Review.” PubMed38650124. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38650124/
  5. Yoshida T, et al. “Resistance exercise training improves disuse-induced skeletal muscle atrophy in humans: a meta-analysis.” PMC11806896. 2025. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11806896/
  6. Wall BT, et al. “Mitigating disuse‐induced skeletal muscle atrophy in ageing: Resistance exercise as a critical countermeasure.” PMC11442788. J Physiol. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11442788/
  7. English KL, et al. “Skeletal Muscle Disuse Atrophy and the Rehabilitative Role of Protein in Recovery from Musculoskeletal Injury.” PMC7360452. Nutrients. 2020. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7360452/
  8. Piil K, et al. “Intensive Rehabilitation Therapy Following Brain Tumor Surgery: A Pilot Study.” PMC6509576. Front Oncol. 2019. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6509576/
  9. Frawley HC, et al. “Pelvic floor rehabilitation in cancer survivors.” PMC11550129. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11550129/
  10. 日本脳腫瘍学会「脳腫瘍診療ガイドライン」Mindsガイドラインライブラリ. https://minds.jcqhc.or.jp/