⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。ご家族の状況に合わせて、担当医・リハビリスタッフにご相談ください。
📋 このページでわかること
  • 家族だからこそできる「観察・環境整備・日常の維持」の具体的な方法
  • よかれと思ってやりがちな「してはいけないこと」と代わりの接し方
  • PT・OT・STなど専門職との連携の仕方と頼み方
  • 介護者自身のこころを守るセルフケアと相談先

脳腫瘍と診断されたご家族を支える日々は、身体的にも精神的にも大きな変化が伴います。特に脳の病気は、手足の動きだけでなく、性格・記憶・感情といった「その人らしさ」に関わる部分に症状が出ることがあるため、戸惑うご家族の方はとても多いです。

この記事では、リハビリテーションや看護の視点を取り入れた「ご家族にできるサポート」と「避けるべき接し方」について、脳腫瘍サバイバーでPTでもある私の視点からお伝えします。

37%

脳腫瘍介護者がうつを経験

※メタ分析(2025)

49%

脳腫瘍介護者が不安を経験

※メタ分析(2025)

42%

がん患者家族のうつ有病率

※国立がん研究センター

ご家族は「第二の患者」と呼ばれるほど、心身への影響を受けます。

✅ ご家族ができること|サポートの基本3つ

日常生活の中でご家族だからこそできる「観察」と「環境づくり」が、治療やリハビリの土台になります。

📓 ① 症状の変化を記録する

脳腫瘍の症状は、腫瘍の場所・サイズ・治療状況によって変化します。「いつもと違う」を記録しておくことで、診察時に医師に正確な情報を伝えられます。

  • 「いつもと違う」をメモ:言葉の出にくさ・歩行のふらつき・手の震え・物忘れ・感情の起伏などを日付と共に記録
  • 診察への同行:記録メモを主治医に見せると、薬の調整・治療方針の変更に役立つ
  • スマホの音声メモや写真も活用:言語化しにくい変化は映像で記録するのも有効

🩺 PTからひと言

リハビリスタッフも「自宅での様子」を知りたがっています。病院内の30〜60分のリハビリだけでは見えないことがたくさんあります。ぜひ担当PTやOTにも変化を共有してください。

🏠 ② 安全に過ごせる環境を整える

麻痺・視野の欠損・ふらつきがある場合、自宅での転倒リスクが大きく高まります。環境を整えることはリハビリと同じくらい重要な「転倒予防」です。

  • 動線の整理:床のコード・マット・つまずきやすい段差を解消する
  • 手すりの設置:廊下・浴室・トイレなど転倒しやすい場所に
  • 照明の確保:夜間のトイレ移動は転倒の多い時間帯。フットライトが有効
  • 薬の管理・通院スケジュールのサポート:本人が混乱しやすい部分をさりげなく

🩺 PTからひと言

自宅環境の改善については、退院前に担当PTやOTに「家屋評価」を依頼することができます。実際に自宅に訪問して危険箇所を確認・提案してもらえる場合があります。入院中に相談してみてください。

☕ ③ 「日常」を大切にする

病気になったからといって、過度に腫れ物のように扱う必要はありません。患者さんにとって最も安心できるのは、「自分はまだ一人の人間として尊重されている」という感覚です。

  • 以前と変わらない会話・世間話を大切に:「体調はどう?」だけでなく、趣味・テレビ・日常の話題を
  • できることは本人にやってもらう:「待つ」ことがリハビリになる(後述)
  • 共通の趣味・楽しみの時間をつくる:音楽・映画・散歩など、治療以外の時間が心の回復に不可欠

⚠️ してはいけないこと|よかれが逆効果になる3つのパターン

ご家族の愛情からくる行動でも、時に患者さんの回復や自尊心を傷つけてしまうことがあります。知っておくことで防げます。

❌ NG

⏩ 本人の意欲を奪う「先回りしすぎ」

動作がゆっくりになると、つい家族が代わりにやってしまいがちです。しかしこれは、本人の「できる力」を奪い、回復を遅らせる可能性があります。

リハビリの大原則は「自分でできることは自分でする」。ボタンを留める・歩いてトイレに行く・食事を自分で食べるといった日常動作のひとつひとつが、脳と体の回復につながるリハビリです。

💡 代わりにできること

本人のペースをじっと待つ。「どこか手伝えるところはある?」と確認してから手を出す。転倒など危険がある場合だけそっと添える「見守り支援」を意識しましょう。
❌ NG

💪 無理に「前向き」を強要する

「頑張れば治る」「元気を出して」「気持ちの問題だよ」という言葉は、心身ともに疲弊している患者さんには大きなプレッシャーになります。

また、脳の病変により意欲の低下・感情のコントロール困難・怒りっぽさが症状として現れることがあります。これを「性格が変わった」「だらけている」と責めることは、症状への誤解から生じる不当な批判です。

💡 代わりにできること

「つらいよね」「無理しなくていいよ」という共感の言葉を先に。意欲低下・感情の変化は「病気の症状」として捉え、担当医やリハビリスタッフに相談しましょう。
❌ NG

😔 家族だけで全てを背負い込む

脳腫瘍のケアは長期にわたることも多く、ご家族は「第二の患者」と呼ばれるほど心身への影響を受けます。研究では脳腫瘍患者の介護者の37〜49%がうつ・不安を経験することが示されています。

介護を「手抜き」だと感じながら一人で抱え込むことは、家族が倒れてしまうリスクを高めます。家族が健康でいることが、患者さんへの最大のサポートです。

💡 代わりにできること

ケアマネジャー・訪問看護・訪問リハビリ・デイサービスなどの公的サービスを積極的に活用する。「助けを求めること」は弱さではなく、賢明な判断です。

🤝 専門職と連携して「チームでケア」しよう

PT(理学療法士)・OT(作業療法士)・ST(言語聴覚士)などのリハビリ専門職は、身体機能の回復だけでなく、高次脳機能障害(記憶・注意・感情のコントロールの障害)への対応についても具体的なアドバイスをしてくれます。「どう接すればいいか」迷ったら、ぜひ相談してみてください。

🦵

PT(理学療法士)

歩行・移動・バランスの専門家。自宅環境の危険箇所の確認(家屋評価)、安全な歩き方の指導、転倒予防について相談できる

🖐️

OT(作業療法士)

日常生活動作(食事・着替え・入浴)の専門家。高次脳機能障害への対応・自助具の提案・自宅での生活環境整備を支援

💬

ST(言語聴覚士)

言語・嚥下(えんげ:飲み込み)・認知の専門家。「言葉が出にくい」「飲み込みにくい」「記憶が心配」という悩みに対応

「どうすれば安全に歩けるか」「どう声をかければ伝わりやすいか」「怒りっぽくなったのはなぜか」など、具体的なコツをリハビリスタッフに尋ねてみてください。退院後も訪問リハビリや外来リハビリで継続的なサポートを受けることができます。

💚 家族自身のこころのケアも忘れずに

ご家族ができる最も大切なことは、「完璧な介護」ではなく「共に穏やかに過ごす時間を増やすこと」です。そのために、あなた自身の心身の状態を守ることが最優先です。

💚 介護者自身のセルフケア|7つのポイント

  • 毎日30分、自分だけの時間をつくる:読書・散歩・趣味など、介護と切り離した時間が燃え尽きを防ぐ
  • 「完璧にやらなくていい」と自分に許可を出す:できないことがあっても当然。罪悪感を持ちすぎない
  • 介護者仲間・患者会に参加する:同じ経験をした人との対話は大きな支えになる
  • がん相談支援センターを活用する:全国のがん診療連携拠点病院で無料相談ができる
  • 精神腫瘍科・心理士への相談を検討する:眠れない・食欲がない・涙が止まらないなどが続く場合は専門家へ
  • 公的サービスを積極的に使う:介護保険・訪問看護・訪問リハビリの活用は「手抜き」ではない
  • 家族・遺族ケア外来の利用:国立がん研究センターなど、家族専用の相談外来が設置されている病院もある
🏥 国立がん研究センター中央病院・東病院では、患者のご家族を対象とした「家族ケア外来」を設置しています。主治医への相談が難しい場合の窓口としても活用できます。
🌿 ZUN体験談|脳腫瘍サバイバー × PT

「家族が一番つらかったのは、”何もできない”という無力感だったと思う」

私が脳腫瘍と診断されたとき、正直、自分よりも家族の方が大変そうでした。私は病気と闘うという明確な役割がありましたが、家族は「見守るしかない」という状況で、それがかえって辛かったと後で話してくれました。

理学療法士として病棟で働いていたとき、患者さんの回復を一番左右するのはご家族の関わり方だと実感してきました。「できることを待ってあげる」という辛抱強さ、「変わらずに接し続ける」という姿勢が、患者さんの意欲と回復を大きく後押しします。

そして最も伝えたいのは、「あなた自身のことも大切にしてください」ということです。倒れてしまったら、支えることができなくなります。助けを求めることは、弱さではありません。

❓ よくある質問(FAQ)

Q. 患者本人が「ほっといて」と言う時、どうすれば?
A「ほっといて」は「気持ちを整理する時間が欲しい」というサインのことが多いです。一旦距離を取り、「いつでも話聞くよ」と一言伝えて静かに待ってあげてください。本人のペースを尊重することが、結果的に信頼関係を深めます。無理に話を引き出そうとしないのがコツ。心配なら数時間〜半日後に「お茶どう?」など軽い接触から再開を。
Q. 病気のことをどこまで話していいかわかりません
A本人が話したいことだけ・本人のペースでが原則です。家族から「大丈夫?」「先生は何て?」と質問攻めにすると、本人は「説明させられている」と感じてしまうことも。「話したくなったら聞くよ」とドアを開けておくスタンスが理想。逆に本人が話したい時はうなずいて聞き、解決策を急に提案しないこと。
Q. 子どもにどう説明すればいい?
A子どもは隠されると逆に不安になります。年齢に応じて事実を伝えるのが◎:
幼児:「頭の中に病気があって、お医者さんが治してくれるよ」
小学生:「うつる病気じゃない」「あなたのせいじゃない」を強調
中高生:大人と同じレベルで情報共有
「秘密」にすると子どもは想像で恐怖を膨らませます。「不安があったら聞いてね」と伝えてあげて。
Q. 患者の性格が変わってしまった気がします
A脳腫瘍の場合、腫瘍の場所により本当に性格が変化することがあります(特に前頭葉)。「以前と違う」を本人や担当医に共有してください。また、治療や精神的ストレスでも一時的に性格が変わることも。「本人を責めない」「医師に伝える」「変化を受け入れる」の3つが大切です。MSW・心理士の介入も有効です。
Q. 家族会議で意見が割れます。どう調整すれば?
A意見が割れるのは家族みんなが本気で考えている証拠です。コツは:
最終決定権は本人(本人の意思尊重が第一)
事実と感情を分ける(医療情報は事実、それ以外は感情)
第三者(MSW・主治医)を交える(中立的視点が役立つ)
家族カンファレンスを病院で開いてもらうのも有効です。
Q. 仕事と介護の両立が限界です
A使える制度を活用してください:
介護休業(対象家族1人につき通算93日まで・3回分割可)
介護休暇(年5日・有給と別)
介護休業給付金(休業中は賃金の67%支給)
時短勤務・在宅勤務の相談
会社に相談する前に、まず病院のMSWに「両立で困っている」と相談を。会社への伝え方や制度の使い方を一緒に整理してくれます。

📝 まとめ

📌 この記事のポイント

🌱 サポートの基本は「変わらずに接する・聞く・待つ」の3つ

🌱 「励ます」「決めつける」「比較する」は逆効果になりやすい

🌱 専門職(医師・看護師・MSW・心理士)とチームでケア

🌱 家族自身のメンタルケアも忘れずに——「第二の患者」になりがち

🌱 「ほっといて」「子どもへの説明」「性格変化」など困った時は専門家へ相談

完璧なサポートを目指す必要はありません。「そばにいる」「変わらず接する」だけで十分。家族のあなたが倒れないことが、患者さんを支え続ける一番の力になります。

📚 参考文献・情報源

  1. Zhang R, et al. “A systematic review and meta-analysis of psychological burden in family caregivers of patients with brain tumors.” Sci Rep. 2025. https://www.nature.com/articles/s41598-025-23331-1
  2. Sherwood PR, et al. “Caring for the brain tumor patient: family caregiver burden and unmet needs.” Neuro Oncol. 2008;10(1):61-72. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2600839/
  3. Rooney AG, et al. “Mediating burden and stress over time: Caregivers of patients with primary brain tumor.” Neurooncol Pract. 2018;5(1):32-40. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28801927/
  4. Cavers D, et al. “When a family member has a malignant brain tumor: the caregiver perspective.” Palliat Support Care. 2012;10(2):93-102. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18481737/
  5. Frambes D, et al. “Caregiver Well-being and the Quality of Cancer Care.” Semin Oncol Nurs. 2018;34(3):277-284. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6728914/
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったとき」. https://ganjoho.jp/public/support/family/fam/index.html
  7. 国立がん研究センター中央病院「家族・遺族ケア外来」. https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/
  8. 国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害支援に関する制度」. https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/seido/
  9. MD Anderson Cancer Center. “Preventing and managing caregiver burnout.” https://www.mdanderson.org/cancerwise/
  10. 兵庫県立総合リハビリテーションセンター「高次脳機能障害について」. https://www.hwc.or.jp/rihacenter/koujinoukinou/
  11. National Cancer Institute. “Informal Caregivers in Cancer (PDQ®)–Health Professional Version.” https://www.cancer.gov/about-cancer/coping/family-friends/family-caregivers-hp-pdq
  12. Cleveland Clinic. “Caregiver Burnout: What It Is, Symptoms & Prevention.” https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/9225-caregiver-burnout
⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。ご家族の状況に合わせて、担当医・リハビリスタッフにご相談ください。

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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/