「仕事にいつ戻れる?」脳腫瘍後の職場復帰ガイド|傷病手当金・障害者手帳・就労支援の使い方

「治療しながら仕事を続けられるの?」「復帰のタイミングがわからない」
脳腫瘍の診断後、こうした悩みを抱える患者・家族は少なくありません。
使える制度を知ることで、選択肢は大きく広がります。PT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーのZUNが、傷病手当金・障害者手帳・就労支援窓口の活用法を、当事者目線でわかりやすく解説します。
- 傷病手当金の仕組みと申請の流れ
- 障害者手帳(身体・精神)取得のメリットと手続き
- がん専門の就労支援窓口(MSW・ハローワーク)の活用法
- PTでもあるZUNが実際に経験した職場復帰のリアル
💡 結論|「働けない今」と「働きたい未来」を制度でつなぐ
この記事の結論
- 傷病手当金は最長通算1年6か月——治療中の収入を守る最重要制度
- 障害者手帳は「弱さの証明」ではなく「配慮を受ける権利」を得るツール
- MSW(医療ソーシャルワーカー)は就労支援の「最初の窓口」として最も相談しやすい
- 焦らず段階的に——「慣らし勤務」から始める復帰が長続きしやすいとされています
📊 脳腫瘍患者の就労|知っておきたいデータ
日本では年間約2万4千人以上が脳腫瘍と診断されるとされており(国立がん研究センター統計)、そのうち就労世代(20〜64歳)も少なくありません。がん対策推進基本計画(第4期、2023年)においても、「がん患者の就労支援」は重点施策として明記されています。
📌 脳腫瘍サバイバーの就労に関する主なエビデンス
- 復職率:術後1年以内に約50〜70%が何らかの形で就労を再開するとされています(Zucchella et al., 2013)
- 課題:認知機能障害・疲労・運転制限が就労継続の主な障壁として報告されています(Sterckx et al., 2013)
- 支援の効果:産業医・MSW・職場の理解を得た患者ほど就労継続率が高いとされています
- 日本の状況:厚労省調査では、がんと診断後に約3割が離職または休職し、そのうち多くが「経済的不安」を最大の課題に挙げています
制度を使い倒すことは「ずるい」ことではありません。あなたが払い続けてきた保険料や税金が、まさに今のための制度です。
「バスで1時間かけての通勤が、私のリハビリになった」
放射線治療とテモダール(テモゾロミド:抗がん剤の一種)12コースの治療を続けながら、私は3か月の休職を経て時短勤務(14:30上がり)で職場復帰しました。副作用で服用3日目から猛烈な吐き気・倦怠感が出るため、「副作用の強い週末〜月曜」は体を動かしにくい。その現実をそのまま上司に伝え、勤務スケジュールを調整してもらいました。
困ったのが運転制限です。脳腫瘍術後・てんかん既往があると、約2年間の自動車運転が制限されます。職場まで車で10分だったのが、バス・電車・徒歩合わせて50分の通勤になりました。最初は「遠回りすぎる」と思いましたが、やがてこの50分の移動が「日常を取り戻すリハビリ」になっていきました。
PTとして患者さんのリハビリを担当しながら、「自分の体を使って誰かの役に立てること」の尊さを改めて感じました。副作用が強い日は早退することもありましたが、職場の理解があったからこそ無理なく続けられたと思っています。
💴 制度①|傷病手当金(治療中の「収入の柱」)
傷病手当金は、病気やけがで働けない期間の収入を守る健康保険の給付制度です。会社員・公務員など健康保険加入者が対象で、国民健康保険には原則ありません。
💰 支給額
直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
例:月給30万円 → 1日あたり約6,667円
📅 支給期間
同一傷病について通算1年6か月(2022年1月の法改正以降)
待期3日間(連続休業)の後、4日目から支給開始
📝 申請方法
会社(事業主)・医師(担当医)・本人の3者が記入
会社の健保組合または協会けんぽへ提出
📋 制度②|障害者手帳(配慮を受ける権利を手に入れる)
「障害者手帳を取ると、もう普通に働けないと思われそうで……」——そんな気持ちを持つ方もいると思います。でも手帳は「弱さの証明」ではなく「合理的配慮を受ける権利の証明」です。
脳腫瘍後に取得できる可能性がある手帳は主に2種類です。
① 身体障害者手帳
術後に肢体不自由・言語障害・視野障害などが残存する場合に対象となる可能性があります。主治医(指定医)の診断書をもとに市区町村窓口へ申請します。1〜6級に分類され、等級によって受けられるサービスが異なります。
② 精神障害者保健福祉手帳
脳腫瘍に伴う高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい:注意・記憶・遂行機能などの障害)・認知機能障害・てんかんなどが対象になる可能性があります。精神科・神経内科の主治医が「精神障害の状態」として診断書を作成し、都道府県・政令市の窓口(またはオンライン)へ申請します。1〜3級に分類されます。
- 📉 所得税・住民税の控除
- 🚃 公共交通機関の割引
- 👔 障害者雇用枠での求職
- 🤝 職場での合理的配慮(義務)
- 🏢 就労支援機関の利用
- 🏥 自立支援医療制度
🤝 制度③|その他の就労支援窓口
🏥 MSW(医療ソーシャルワーカー)【最初の相談先として最もおすすめ】
入院・通院している病院に在籍している社会福祉士・精神保健福祉士です。傷病手当金・障害者手帳・介護保険・就労支援のすべてを横断的に相談できます。「どこに相談すればいいかわからない」場合はここが出発点です。
📞 がん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院に設置。かかりつけ病院以外の患者・家族も無料で相談できます。就労・経済・生活全般の支援情報を提供しています。
→ 国立がん研究センター|拠点病院検索はこちら🏢 ハローワーク(障害者専門窓口)
障害者手帳を持つ方向けの専門相談員が在籍。障害者雇用枠での求職活動、就労移行支援事業所の紹介、職場定着支援を受けられます。
🔧 産業医・人事部門
50人以上の事業場では産業医の設置が義務付けられています。復職可能性の判断、就業制限の調整、職場環境の改善提案を行ってくれます。復帰前に必ず面談を受けることをお勧めします。
🗺️ 職場復帰ロードマップ|5つのステップ
治療中:傷病手当金を申請し、体の回復を最優先に
申請書類は会社の総務・人事から取り寄せます。主治医に「就労不能」の証明を書いてもらう必要があります。申請が遅れると受給開始が後ろにずれるため、入院中から準備を始めるのが理想です。
復帰の準備:主治医・産業医に相談し、診断書を取得
「復職可能」の診断書が必要です。「何時間なら働けるか」「運転はできるか」「化学療法の継続スケジュール」を主治医と確認し、産業医・会社に共有します。
会社との調整:配慮事項を「具体的に」伝える
「副作用が強い日は早退したい」「階段は辛いのでエレベーターを使いたい」など、漠然とした「配慮をお願いします」より具体的なお願いの方が職場も動きやすくなります。就業規則の「復職制度」も必ず確認を。
慣らし勤務:短時間・軽作業から体調を確認しながら
いきなりフル勤務は再休職のリスクが高いとされています。最初の2〜4週間は時短勤務・デスクワーク中心に。「疲れた」と感じる前に切り上げる習慣をつけると長続きしやすいです。
通常勤務へ:定期受診を続けながら無理なくペースを守る
「通常勤務に戻ること」がゴールではありません。定期的な主治医受診・体調管理を続けながら、働き方を柔軟に調整し続けることが大切です。再燃・再発の早期発見にもつながります。
❓ よくある質問(FAQ)
傷病手当金を受け取りながら副業・アルバイトはできますか?
原則として就労した日(収入を得た日)の手当は支給されません。ただし「就労不能」の状態でも一定の所得がある場合は減額されるケースがあります。必ず加入している健保組合・協会けんぽに確認してください。
障害者手帳を取得すると解雇されませんか?
手帳取得を理由とした解雇は障害者雇用促進法の観点から問題となります。また企業側は従業員に手帳取得を強制することも禁止されています。手帳情報を会社に開示するかどうかは本人の自由です。ただし開示することで「合理的配慮」を法的に求めやすくなるメリットもあります。
治療中に転職を考えています。可能ですか?
可能ですが、注意点があります。①退職すると健康保険の資格を喪失するため傷病手当金の継続受給条件を確認する必要があります。②転職先での試用期間中は健保加入前のことがあり給付対象外になる場合も。③障害者雇用枠を活用することで配慮を受けながら転職しやすくなる場合があります。MSWや就労支援機関への相談をお勧めします。
復職したら傷病手当金は完全に終わりですか?
「通算1年6か月」の期間内であれば、復職後に再び就労不能になった場合でも残りの期間分を受給できます(同一傷病の場合)。復職後も体調が不安定な時期は無理をしすぎず、必要なら再申請を視野に入れておくことが大切です。
📝 まとめ|働き方は「元通り」ではなく「今の自分に合う形」を
職場復帰・就労支援でおさえたいポイント
- 傷病手当金は早めに申請を。退職後も継続できる場合があるので確認を忘れずに
- 障害者手帳は「権利を守るツール」。取得しても働き方の選択肢は広がる一方です
- MSW(医療ソーシャルワーカー)が最初の相談窓口として最もアクセスしやすい
- 職場への配慮のお願いは「具体的に」伝えることがお互いを楽にする
- 焦らず5ステップで進める。慣らし勤務から始めることが長く働き続けるコツ
仕事に戻ることは「元通りになること」ではなく、「今の自分に合った働き方を見つけること」です。退院後の生活全体のロードマップは退院後1か月の生活立て直しガイドもあわせてご覧ください。
📖 参考文献
- Zucchella C, et al. “Cognitive rehabilitation for early post-surgery inpatients affected by primary brain tumor: a randomized, controlled trial.” J Neurooncol. 2013;114(1):93-100. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23677749/
- Sterckx W, et al. “The impact of a primary brain tumour on everyday life over the disease trajectory: a qualitative study.” Eur J Oncol Nurs. 2013;17(4):485-95. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23416400/
- Boele FW, et al. “Symptoms of depression and anxiety are related to patient and partner anxiety level in low-grade glioma.” Neuro Oncol Pract. 2015;2(2):80-86. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4674444/
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(2024年改訂版). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115300.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと仕事」. https://ganjoho.jp/public/support/work/index.html
- 全国がん患者団体連合会「がん患者の就労継続に関する実態調査」. https://zenganren.jp/
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金について」. https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/
- 厚生労働省「障害者雇用促進法に基づく合理的配慮指針」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html
- 厚生労働省「障害者手帳について」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html
- がん対策推進基本計画(第4期、2023年). 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「就労支援のしおり」. https://www.jeed.go.jp/disability/
- 厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ」. https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/










