「子供は2〜3人欲しいね」――結婚前から夫婦で描いていた賑やかな家庭の風景。しかし、2024年、私たちは二人とも病を抱える身となっていました。脳腫瘍の治療開始まで、残された猶予はわずか10日。この絶望的な状況下で、それでも未来の家族の可能性を諦めないと決めた、私たちの生殖医療への挑戦の記録です。

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ZUN

理学療法士 × 脳腫瘍グレード3サバイバー

医療者として、そして患者として、両方の視点から脳腫瘍と向き合う方とそのご家族に、少しでも安心できて役立つ情報を届けられるように心がけています。

理学療法士(国家資格・2016年取得)/糖尿病療養指導士
脳卒中・整形外科・消化器・血液内科などのリハビリに従事
研修修了:呼吸器・がんリハビリ

手術・入院・リハビリ・退院後の生活を、臨床知識と実体験ベースでお伝えしています。

💑 夫婦二人で病を抱えて、葛藤の末の決断

私たち夫婦にはすでに娘が一人いますが、実は妻も娘の出産直前から原因不明の病を抱えていました。夫婦揃って「病気の保持者」となった今、新しい命を望むことは正しいのか。自分たちの体調や将来を考え、何度も相談しました。

しかし、「賑やかな家族」という夢をどうしても捨て去ることはできませんでした。娘に”きょうだい”を作ってあげたい。その一心で、私たちは生殖医療への挑戦を決意しました。

⏰ 迫る治療開始、10日間で駆け抜けた「妊孕性温存」

私は以前、高校生で骨肉腫に罹患した患者さんを担当したことがありました。その時に「妊孕性(にんようせい)温存」の存在を知り、私も適用されるのでは?と思いチャレンジ。

病理診断が出てから、抗がん剤・放射線治療が始まるまでの期間はわずか10日ほど。決断を迫られて、立ち止まっている暇はありませんでした。急いで妊孕性温存ができる大学病院へ連絡を取り、脳腫瘍の主治医と生殖医療センターの専門医を繋いでもらいました

一刻を争うスケジュールでしたが、医療従事者の方々の連携のおかげで、治療が始まるギリギリのタイミングで準備を整えられました。

🌱 「未来へ種を蒔く」全集中と、10本の希望

大学病院の個室。体調は決して万全ではありませんでしたが、私は「未来へ種を蒔くこと」に全集中。

結果、10本の精子凍結保存に成功。この「10本」という数字は、単なる医療データではなく、私たち家族の未来への切符のように感じられました。「いつか娘に”きょうだい”を…」。その準備が整ったことに、心の底から安堵しました。

💴 自費診療の壁を支えた「補助金制度」の存在

生殖医療は基本的に自費診療であり、経済的な負担は小さくありません。しかし、調べていくうちに「小児・若年がん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」といった公的な助成金制度があることを知りました。

こうした支援があることは、治療費がかさむ闘病生活において大きな救いとなりました。制度をフルに活用しながら、私たちは「病気」だけでなく「未来」にも投資することができたのです。

事業内容の詳細は厚生労働省の公式情報をご確認ください:
厚生労働省:小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業

🩺 PT(理学療法士)として、振り返って思うこと

私が「妊孕性温存」という選択肢を知ったのは、リハビリ職になって数年目、高校生で骨肉腫を発症した患者さんを担当した時のことでした。「治療を始める前に、大学病院に行くんですよ。」とリハビリ中に彼から教えてもらいました。今でも鮮明に覚えています。

あの時の私は、まさかその知識が数年後、自分の人生を救うことになるとは思っていませんでした。脳腫瘍の告知を受けた直後、「治療開始まで10日」というタイムリミットの中で、あの記憶が瞬時に蘇りました。医療者として知っていたことが、患者になった瞬間に自分自身の未来を選ぶ武器になった——これは医療従事者としても、患者としても、忘れられない経験です。

そして、もう一つ伝えたいことがあります。AYA世代(思春期・若年成人)でがんと向き合う方へ。妊孕性温存は、本人が知らなければ動けない制度です。担当医から自動的に提案されるとは限りません。(MSW<:メディカルソーシャルワーカー、医療相談員>の方なら教えてくれるかもしれませんが。)「治療を急がなければ」と焦るときこそ、未来の選択肢に目を向ける勇気を持ってほしい。看護師やMSW、がん相談支援センターは、そのための強い味方になってくれます。

「病気」と向き合いながら、同時に「未来」にも投資する。両立はとても難しい選択ですが、残された時間の中で、人生のどの引き出しを開けるかを選べるのは、自分自身です。

※この記事について:本記事は、ZUN個人の実体験に基づいた手記です。妊孕性温存療法の適応・成功率・費用・助成金制度は、年齢・性別・がんの種類・自治体によって大きく異なります。検討される方は、担当医・生殖医療専門医・がん相談支援センターに必ずご相談ください。
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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/