いよいよ始まる、標準治療「Stuppレジメン」。しかし、治療のスタートラインに立つ私の前には、思わぬ障壁が立ちはだかっていました。術後の感染症と、喉の痛み、放射線治療用の”お面”との闘い、そして主治医と相談して決めた12コースに及ぶ抗がん剤治療への決意。身体への負担と希望が交錯する、治療初期の記録です。

🩹 治療開始前のトラブル、腐った縫合糸と「お面」の作成

病理診断が終わり、いよいよ放射線治療へ……という矢先、術後の傷口が膿んでいることが判明しました。原因は、なんと縫合糸の腐敗。放射線治療に必要な「お面(シェル)」を作るためには、まずこの感染を治さなければなりませんでした。

形成外科で局所麻酔を打ちながらの異物除去。術後の身体に、この処置の痛みはなかなか堪えるものでした。

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ZUN

理学療法士 × 脳腫瘍グレード3サバイバー

医療者として、そして患者として、両方の視点から脳腫瘍と向き合う方とそのご家族に、少しでも安心できて役立つ情報を届けられるように心がけています。

理学療法士(国家資格・2016年取得)/糖尿病療養指導士
脳卒中・整形外科・消化器・血液内科などのリハビリに従事
研修修了:呼吸器・がんリハビリ

手術・入院・リハビリ・退院後の生活を、臨床知識と実体験ベースでお伝えしています。

😣 喉の違和感と滲出液、むせ込みに耐えた10分間

術中の気管挿管の影響か、喉にはずっとイガイガとした痛みが残っていました。放射線治療は、頭部をシェルで完全に固定して行われます。固定された状態で襲ってくる、むせ込むような感覚。

さらに感染部位からは滲出液が出るため、シェルをつけるたびにガーゼを当てる処置も必要でした。動けない10分間、身体の不調を堪え忍ぶ時間は、精神的な忍耐を要しました。

💊 抗がん剤「Stuppレジメン」と12コースへの決意

私の受けた治療は、悪性星細胞腫の標準治療である「Stuppレジメン」(←Stuppさんが編み出した治療)です。放射線治療(1日2グレイ×30回)と並行して、放射線の効果を高めるために毎日少量の抗がん剤を服用しました。

放射線終了後は5日間”テモダール”を内服、23日休薬を挟みながら内服量を増量していくのですが、主治医からは「米国は6コース、日本は12コース行うことが多く、日本の方が成績が良い」という説明がありました。

私は迷うことなく、より良い結果を信じて12コース完走することを決意しました。

🏠 幼い娘を守るために、家庭内での「抗がん剤曝露」対策

抗がん剤服用中、最も気を使ったのが娘への影響です。体液から成分が出ると薬剤師の方から説明を受けたため、排泄や入浴、汗のついた洗濯物は分けた方が無難だと聞き、徹底した対策を講じました。

トイレは私専用として2階を使用し、お風呂は最後に入るか暖かい日はシャワーのみ。汗をかいた下着や服は別に洗濯するなど、大切な家族を「薬」から守るための工夫を積み重ねました。

🩺 PT(理学療法士)として、振り返って思うこと

リハビリ職として、私は放射線治療を受けながらリハに通う患者さんを何度も担当してきました。「シェルで固定される10分間が辛い」「終わった後はリハビリはやめとくよ」——よく耳にする言葉でしたが、自分が実際に体験するまで、その「10分間の重み」を本当には理解できていませんでした。

固定された状態でむせ込みそうになっても動けない。あの辛さは、想像していたものの数倍重いものでした。今、放射線後の患者さんにリハビリに入るときには、必ず「放射線の後は無理しなくていいですよ。」と一言添えるようにしています。

そして、「Stuppレジメン12コース」という決断について。米国基準(6コース)と日本基準(12コース)の違いを医師から提示されたとき、選ぶのは自分自身です。「治療効果を最大化したい」自分と、「副作用で家族との時間を削りたくない」自分——二つの気持ちが揺れました。最終的に12コースを選んだのは、PTとしてのデータ知識ではなく、「もう少し長く家族と過ごせる可能性があるなら」という当事者としての願いでした。

そして、最も伝えたいこと——家庭内曝露対策で頭をいっぱいにしすぎないでほしい、ということです。トイレ別、洗濯別、お風呂順——大切な対策ですが、それらに完璧を求めすぎると、治療継続の精神的負担が膨大になります。「家族を守る」と「自分の心を守る」のバランスを、薬剤師さんや看護師さんと相談しながら見つけてほしいと思います。

※この記事について:本記事は、ZUN個人の実体験に基づいた手記です。Stuppレジメンの内容(線量・コース数・併用薬)や副作用は、腫瘍の種類・グレード・患者さんの状態によって医師が個別に判断します。治療内容や家庭内の曝露対策は、必ず担当医師・薬剤師・看護師にご相談ください。
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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/