第6話:生殖医療への挑戦。未来へ繋ぐ10日のタイムリミット

💑 夫婦二人で病を抱えて、葛藤の末の決断
私たち夫婦にはすでに娘が一人いますが、実は妻も娘の出産直前から原因不明の病を抱えていました。夫婦揃って「病気の保持者」となった今、新しい命を望むことは正しいのか。自分たちの体調や将来を考え、何度も相談しました。
しかし、「賑やかな家族」という夢をどうしても捨て去ることはできませんでした。娘に”きょうだい”を作ってあげたい。その一心で、私たちは生殖医療への挑戦を決意しました。
⏰ 迫る治療開始、10日間で駆け抜けた「妊孕性温存」
私は以前、高校生で骨肉腫に罹患した患者さんを担当したことがありました。その時に「妊孕性(にんようせい)温存」の存在を知り、私も適用されるのでは?と思いチャレンジ。
病理診断が出てから、抗がん剤・放射線治療が始まるまでの期間はわずか10日ほど。決断を迫られて、立ち止まっている暇はありませんでした。急いで妊孕性温存ができる大学病院へ連絡を取り、脳腫瘍の主治医と生殖医療センターの専門医を繋いでもらいました。
一刻を争うスケジュールでしたが、医療従事者の方々の連携のおかげで、治療が始まるギリギリのタイミングで準備を整えられました。
🌱 「未来へ種を蒔く」全集中と、10本の希望
大学病院の個室。体調は決して万全ではありませんでしたが、私は「未来へ種を蒔くこと」に全集中。
結果、10本の精子凍結保存に成功。この「10本」という数字は、単なる医療データではなく、私たち家族の未来への切符のように感じられました。「いつか娘に”きょうだい”を…」。その準備が整ったことに、心の底から安堵しました。
💴 自費診療の壁を支えた「補助金制度」の存在
生殖医療は基本的に自費診療であり、経済的な負担は小さくありません。しかし、調べていくうちに「小児・若年がん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」といった公的な助成金制度があることを知りました。
こうした支援があることは、治療費がかさむ闘病生活において大きな救いとなりました。制度をフルに活用しながら、私たちは「病気」だけでなく「未来」にも投資することができたのです。
事業内容の詳細は厚生労働省の公式情報をご確認ください:
厚生労働省:小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業
🩺 PT(理学療法士)として、振り返って思うこと
私が「妊孕性温存」という選択肢を知ったのは、リハビリ職になって数年目、高校生で骨肉腫を発症した患者さんを担当した時のことでした。「治療を始める前に、大学病院に行くんですよ。」とリハビリ中に彼から教えてもらいました。今でも鮮明に覚えています。
あの時の私は、まさかその知識が数年後、自分の人生を救うことになるとは思っていませんでした。脳腫瘍の告知を受けた直後、「治療開始まで10日」というタイムリミットの中で、あの記憶が瞬時に蘇りました。医療者として知っていたことが、患者になった瞬間に自分自身の未来を選ぶ武器になった——これは医療従事者としても、患者としても、忘れられない経験です。
そして、もう一つ伝えたいことがあります。AYA世代(思春期・若年成人)でがんと向き合う方へ。妊孕性温存は、本人が知らなければ動けない制度です。担当医から自動的に提案されるとは限りません。(MSW<:メディカルソーシャルワーカー、医療相談員>の方なら教えてくれるかもしれませんが。)「治療を急がなければ」と焦るときこそ、未来の選択肢に目を向ける勇気を持ってほしい。看護師やMSW、がん相談支援センターは、そのための強い味方になってくれます。
「病気」と向き合いながら、同時に「未来」にも投資する。両立はとても難しい選択ですが、残された時間の中で、人生のどの引き出しを開けるかを選べるのは、自分自身です。











