「計画が立てられない」「感情が抑えられない」「言葉がうまく出ない」
これらは前頭葉のはたらきと関係していることがあります。
前頭葉は思考・判断・運動・言語・感情を司る、いわば「人間らしさ」の中枢です。
  • この記事でわかること:前頭葉の位置と構造
  • 思考・運動・言語・感情のはたらき
  • ダメージを受けたときに起きやすい症状
  • 当事者ZUN自身の体験(右前頭葉腫瘍サバイバーとして)
  • 日常生活への影響と機能回復の可能性

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ZUN

理学療法士 × 脳腫瘍グレード3サバイバー

医療者として、そして患者として、両方の視点から脳腫瘍と向き合う方とそのご家族に、少しでも安心できて役立つ情報を届けられるように心がけています。

理学療法士(国家資格・2016年取得)/糖尿病療養指導士
脳卒中・整形外科・消化器・血液内科などのリハビリに従事
研修修了:呼吸器・がんリハビリ

手術・入院・リハビリ・退院後の生活を、臨床知識と実体験ベースでお伝えしています。

🧠 前頭葉はどこにある?位置と構造

前頭葉は脳の最も前、額のすぐ後ろに位置する脳葉です。4つの脳葉(前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉)のなかでも最も大きく、脳全体の約3分の1を占めています。
前頭葉は大きく分けて「前頭前野」「運動前野」「一次運動野」の3つの領域から構成され、それぞれが異なる役割を担っています。

前頭前野
prefrontal cortex
最も前にある領域。思考・判断・計画・感情のコントロールなど、「人間らしさ」を担う高次機能の中枢。
運動前野
premotor cortex
一次運動野の前にある領域。動きを「計画する」役割。複雑な運動の準備や順序づけを担う。補足運動野(SMA)もここに含まれ、両手の協調運動などに重要。
一次運動野
primary motor
中心溝のすぐ前にある領域。実際に手足を動かす指令を出す。反対側の体を動かす。

左右ではたらきが異なります。左前頭葉には言葉を発するためのブローカ野があり、右手足の運動も司ります。右前頭葉は左手足の運動を担い、感情や空間的な処理に関わります。脳腫瘍や脳卒中では、どちら側の前頭葉に病変があるか・どの領域に影響が及ぶかで症状の出方が大きく変わります。

💡 前頭葉の主な役割

💡
思考・判断
物事を考え、正しい判断を下す。複雑な問題を論理的に解決する高次の認知機能を担う。
📋
遂行機能(計画)
目標を決め、順序を考え、計画を立てて実行する。「段取りをつける」力。
😊
感情・性格のコントロール
衝動を抑え、感情を適切にコントロールする。人格・性格にも深く関わる。
🖐️
運動の指令(反対の手足)
一次運動野が全身の随意運動を指令。右前頭葉が左手足を、左前頭葉が右手足をコントロール。
🗣️
言葉を話す(ブローカ野)
左前頭葉にあるブローカ野が、言葉を発話するための運動計画を担当。
👀
注意・集中・記憶
注意を向け、集中を持続させる。作業記憶(ワーキングメモリ)も前頭葉が担う。

⚠️ 前頭葉にダメージがあると起きやすい症状

こんな症状が現れることがあります
  • 計画が立てられない・物事を順序立てて進められない
  • 感情の起伏が激しくなる・急に怒りやすくなる
  • 言葉がうまく出てこない・話す言葉が少なくなる(ブローカ失語)
  • 反対側(多くは左)の手足が動かしにくくなる
  • やる気がなくなる・無気力になる
  • 注意が散漫になる・集中力が続かない
  • 性格が変わる・以前と違う振る舞いをする

🩺 PT・サバイバー視点:右前頭葉腫瘍を経験して

🩺 当事者として——私自身が前頭葉に腫瘍を抱えた経験

このブログを運営している私自身、右前頭葉に悪性星細胞腫グレード3と診断されました。前頭葉という、まさにこの記事で解説してきた「人間らしさの中枢」に腫瘍があった経験から、お伝えしたいことがあります。

術前、最も恐れたのは「性格が変わってしまうかもしれない」ということでした。リハビリ職として、前頭葉病変の患者さんが穏やかだったご家族から見て「別人のようになる」ケースを目の当たりにしていたからです。手術前夜、妻に「もし違う人になっても、家族を大切にすることだけは忘れないようにする」と話したのを覚えています。

「前頭葉は人格の中枢」——その知識が、当事者になった瞬間、最大の恐怖になりました。

術後、補足運動野の近くだったため、左手足の指先の機能が著しく低下しました。握ったものを離せない、目を閉じる指示を守れない——そんな自分を見て、リハ職としての知識が逆に「焦り」を増幅させた日々がありました。

また、退院後しばらくは 感情のコントロールが難しい 日が続きました。些細なことでイライラする、急に涙が出る——これも前頭葉の機能が回復していく過程の症状だと、今は理解できます。「治っていく途中のサイン」と捉え直すことで、自分も家族も気持ちが楽になりました。

🏠 日常生活への影響と工夫

こんな場面で「あれ?」と感じることがあります
  • 仕事・家事:複数の作業を同時にこなせない/優先順位をつけられない
  • 会話・人間関係:思ったことをそのまま口にしてしまう/空気が読めない感覚
  • 感情面:些細なことでイラっとする/急に涙もろくなる/無気力
  • 運動面:反対側の手足の細かい動きがぎこちない/字が書きづらい
  • 計画面:旅行や買い物の段取りが立てづらい/予定を忘れる

💡 工夫のヒント「To Doリストの徹底活用」で計画機能を補う/「6秒ルール」でイラっとした時は6秒待つ/家族には「これは前頭葉の症状」と共有しておく。環境を整えることが、機能回復の最大の助けになります。

💪 機能回復の可能性とリハビリの考え方

💪 私自身が経験した「回復への道」

前頭葉の症状は、神経可塑性(しんけいかそせい)により、リハビリで改善が見込めます。私自身、術後1週間で退院の目処が立ち、その後の数ヶ月で徐々に手足の機能・感情のコントロール・計画力が戻ってきました。

具体的なリハビリの方向性:
① 運動機能の回復:ゴルフボール・ビー玉・粘土で指の細かい動きを訓練(私が実践した方法)
② 遂行機能の訓練:To Doリスト・カレンダー記入で計画力を鍛える
③ 感情調整:呼吸法・有酸素運動・睡眠の質改善で扁桃体の安定を促す
④ 言語機能(ブローカ野):音読・声に出す日記・会話の意識的な練習

大切なのは「焦らないこと」。前頭葉の回復は数週間〜数ヶ月単位で進みます。「昨日できなかったことが、今日できた」という小さな積み重ねを、本人と家族で大切にしてください。神経可塑性の仕組み も参考になります。

🚨 こんな時はすぐに受診を

🚨 早めの受診が必要なサイン
  • 急に片側の手足が動かなくなった(脳卒中の可能性)
  • 突然、性格や言動が大きく変わった
  • 強い頭痛とともに、計画や判断ができなくなった
  • 新しいけいれん発作・意識消失が起きた
  • 家族から見て「いつもと違う」と感じる行動が続く

📝 まとめ

前頭葉について知っておきたいこと
  • 前頭葉は4つの脳葉のうち最も大きく、脳全体の約3分の1を占める
  • 前頭前野・運動前野・一次運動野の3つの領域からなる
  • 思考・判断・感情・運動・言語(話す)を担う「人間らしさの中枢」
  • 左前頭葉にはブローカ野(話す言語中枢)がある
  • 一次運動野が反対側の手足の動きをコントロールする
  • ダメージで計画・感情・言葉・運動に症状が出やすい
  • 神経可塑性により、リハビリで改善する可能性が十分にある
  • 「治っていく途中のサイン」と捉え直すと、本人も家族も楽になる

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参考文献
  1. MSDマニュアル家庭版.「部位別にみた脳の機能障害」. msdmanuals.com
  2. Johns Hopkins Medicine. “Brain Anatomy and How the Brain Works.” hopkinsmedicine.org
  3. NINDS. “Brain Basics: Know Your Brain.” ninds.nih.gov
  4. Kolb B, et al. “Neuroanatomy, Cerebral Cortex.” StatPearls. NCBI. NBK537247
  5. Afifi AK, et al. “Anatomy, Central Nervous System.” StatPearls. NCBI. NBK542179
  6. Kleim JA, Jones TA. “Principles of experience-dependent neural plasticity: implications for rehabilitation after brain damage.” J Speech Lang Hear Res. 2008. PMID:18230848
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス「脳腫瘍(成人)」. ganjoho.jp
⚠️本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の右前頭葉腫瘍の実体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。脳腫瘍の症状や経過は個人差が大きく、当てはまらないケースもあります。気になる症状がある場合は必ず担当の脳神経外科医・神経内科医にご相談ください。緊急性のある症状(急な麻痺・強い頭痛・意識障害)は速やかに医療機関を受診してください。