副作用という山を越える有酸素運動プログラム|ZUNの脳腫瘍サポートナビ
⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。運動を開始する前に必ず担当医にご確認ください。
「今は動かずに休んでいたほうがいいのでは?」
そう思うのは、とても自然なことです。しかし近年のリハビリテーション医学では、「安静にしすぎないこと」がむしろ回復への近道であることがわかってきました。
この記事では、自宅の限られたスペースで安全に実践できる、「副作用という山を越えるための有酸素運動プログラム」をステップバイステップで解説します。
  • なぜ「動くこと」ががん関連倦怠感(CRF)に効くのか?
  • 準備〜仕上げまで5段階の「登山プログラム」を丁寧に解説
  • 貧血・血小板値が低い時など安全に動くための注意点
  • 脳腫瘍サバイバー×PTのZUNが治療中に実際に続けていたこと

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ZUN

理学療法士 × 脳腫瘍グレード3サバイバー

医療者として、そして患者として、両方の視点から脳腫瘍と向き合う方とそのご家族に、少しでも安心できて役立つ情報を届けられるように心がけています。

理学療法士(国家資格・2016年取得)/糖尿病療養指導士
脳卒中・整形外科・消化器・血液内科などのリハビリに従事
研修修了:呼吸器・がんリハビリ

手術・入院・リハビリ・退院後の生活を、臨床知識と実体験ベースでお伝えしています。

1. なぜ「動くこと」が副作用に効くのか?

🏃1. なぜ「動くこと」が副作用に効くのか?

副作用、特にがん関連倦怠感(CRF: Cancer Related Fatigue)は、休息だけでは解決しないのが特徴です。安静にしすぎると筋力・体力が落ち、さらに倦怠感が強まるという「負の連鎖」が起きやすくなります。運動はその連鎖を断ち切る、最もエビデンスのある介入です。

🩸
循環の改善
血流が良くなると、体内に溜まった炎症物質や代謝産物の排出がスムーズになります。リンパ浮腫の改善にもつながることが報告されています。
🧠
自律神経の調整
一定のリズムで動く有酸素運動は、乱れた自律神経を整え、睡眠の質を高めます。メタ分析で、12週間以上の運動プログラムが自律神経機能を有意に改善することが示されています。
💪
「動ける」という自信
少しずつでも動くことで、身体機能の向上と共に「自分の体はまだ大丈夫だ」という心理的な前向きさが生まれます。QOL(生活の質)改善効果も多くの研究で示されています。
🔄CRFの「負の連鎖」とは?

倦怠感 → 活動量の低下 → 筋力・体力低下 → さらに倦怠感が増す…というサイクルが起きがちです。「安静にしすぎない」ことで、この連鎖を断ち切るのが運動療法の目標です。

2. 失敗しないための「登山」プログラム(5ステップ)

⛰️2. 失敗しないための「登山」プログラム(5ステップ)

体が驚かないよう、前後にストレッチを挟む「アップ→本運動→クールダウン」の構成が基本です。山登りになぞらえた5つのステップで進めましょう。

🎒
STEP①
準備
ストレッチ
🧗
STEP②
登山開始
軽い運動
🗻
STEP③
登頂!
有酸素運動
🏂
STEP④
下山
軽い運動
🧹
STEP⑤
片付け
ストレッチ
🎒STEP ① ストレッチ(登山準備)— まず体をほぐす

まずは筋肉の緊張をリセットし、呼吸を深くして「動ける体」を準備します。椅子に座ったままでも行えます。

🫁 深呼吸 鼻から4秒かけてゆっくり吸い、口から8秒かけて細く長く吐き出します(できれば腹式呼吸)。3〜5回繰り返します。
🔺 肩の上げ下げ 耳に近づけるように肩を思い切り引き上げ、一気に脱力して下ろします。これを10回繰り返します。
🔄 肩回し 手で肩を触り、肘で大きな円を描くように前回し・後ろ回しをそれぞれ10回ずつ行います。
🧗STEP ② 軽い運動(登山開始)— 心拍数をゆっくり上げる

心拍数を少しずつ上げ、血液を全身へ送り出します。椅子に座ったまま行えるメニューです。回数は各10〜20回、「楽にできる〜少しきつい」と感じる範囲で調整してください。

🦵 腿上げ 椅子に座ったまま、膝を片方ずつ交互に持ち上げます。慣れてきたら少しずつ高さを上げていきましょう。
🦿 膝伸ばし 椅子に座ったまま、膝から下を太ももと水平になるくらいまで持ち上げます。このとき足首を手前に反らして「背屈(はいくつ)」を行うと効果的です。
👣 足首の底屈・背屈
(ていくつ・はいくつ)
椅子に座ったまま、つま先を上げる(背屈)→かかとを上げる(底屈)を交互に繰り返します。ふくらはぎのポンプ作用で血流が促進されます。
🗻STEP ③ 有酸素運動(登頂!)— ここが山の頂上

ここが登山プログラムの「山頂」部分です。無理のない範囲で行いましょう。体調が優れない日は、この部分を短縮または省略しても構いません。

🚶 室内ウォーキング
または足踏み
15〜20分を目安に、やや早い歩き方で歩くか足踏みします。「信号が変わりそうな時に急いで渡るくらいの速さ」が目安です。
💓 強度の目安:「少し息が弾むけれど、誰かと会話ができる程度」が最適です。これは「トークテスト」と呼ばれる、最も手軽な運動強度の指標です。
⚠️ 副作用の強さや日々の体調の差は個人差が大きいため、まずは「動く」ことから始めましょう! 15〜20分が難しければ5分でも十分です。
🏂STEP ④ 軽い運動(下山)— ゆっくりペースを落とす

急に動きを止めると血圧が変動しやすく、めまいや気分不良の原因になることがあります。3〜5分かけてゆっくりペースを落としましょう。

🚶 ゆっくり足踏み 3分ほどかけて、徐々に動きを小さく・ゆっくりにしていきます。呼吸が落ち着くまで続けましょう。
🧹STEP ⑤ ストレッチ(片付け)— 疲労を残さない仕上げ

運動後の疲労を翌日に持ち越さないための仕上げストレッチです。体が温まっているこのタイミングに行うことで、柔軟性が高まりやすくなります。

🦵 太もものストレッチ 椅子に浅く腰かけ、片脚をまっすぐ前に伸ばします。つま先を天井に向けながら、上体を軽く前に倒して太ももの裏を伸ばします。左右各15〜20秒。
🦶 アキレス腱のストレッチ 椅子や手すりに掴まり、片足を後ろに大きく引いてアキレス腱とふくらはぎを伸ばします。かかとを床につけたまま前に体重をかけます。左右各15〜20秒。

3. 安全に「山」を登りきるための注意点

⛰️3. 安全に「山」を登りきるための注意点

副作用の山には、日によって「天候(体調)の波」があります。自分の体調を第一に優先しながら、無理なく継続することが大切です。

📋安全に動くための3つのポイント
  • 体調ファースト:37.5度以上の発熱や、強い動悸・めまい・息切れがある時は、勇気を持って「停滞(休み)」を選んでください。無理に続けることが目的ではありません。
  • 水分と環境:室内は適切な温度に保ち、喉が渇く前に一口ずつ水分を摂りましょう。屋外で行う場合は、冬なら昼の暖かい時間帯、夏なら朝晩の涼しい時間帯を選びましょう。
  • 主治医との連携:貧血(ヘモグロビン低下)や血小板値が低い時期は、運動の強度を下げるか休止すべき場合があります。定期受診の際に「家でこれくらい動いています」と伝えておくと安心です。
🛑すぐに運動を止めてください
  • 強い動悸・胸の痛み
  • 激しい息切れ
  • ひどいめまい・ふらつき
  • 吐き気・嘔吐
  • 37.5度以上の発熱
  • 急激な体の痛み
🧠 ZUNの体験談(脳腫瘍サバイバー × PT)
「継続は力なり」——私が治療中に続けていたこと

手術後の治療中は家庭菜園やウォーキング、日常生活で筋トレを取り入れ、体を積極的に動かすことを意識して続けていました。

特に効果を感じたのは「家庭菜園」でした。植物の世話をしながら自然と体を動かすことができ、「義務感のない運動」として気持ちの負担がなかったのを覚えています。PTとして「活動と休息のバランスが大事」と頭ではわかっていても、自分が患者になると「やる気が出ない」「疲れる前にやめたい」という気持ちと毎日葛藤していました。

そんな経験から思うのは、「楽しめることから始めてみる」という小さな目標こそが、長く続くコツだということです。ノルマを自分で決めて、それを達成した自分を褒めてあげてください。

「継続は力なり」——小さな積み重ねが、必ず未来の自分の体を変えてくれます。

— ZUN(脳腫瘍サバイバー・PT)

まとめ:一歩の積み重ねが、景色を変える

🧩まとめ:一歩の積み重ねが、景色を変える
🗻この記事のポイント
  • CRFは「休息だけ」では解決しない。安静にしすぎると筋力低下→さらに倦怠感という負の連鎖が起きる
  • 有酸素運動は循環改善・自律神経調整・心理的前向きさという3つの効果をもたらす
  • 5段階「登山プログラム」:①準備ストレッチ→②軽い運動(アップ)→③有酸素運動→④軽い運動(ダウン)→⑤仕上げストレッチ
  • 強度の目安は「トークテスト」——会話はできるが歌うと息が切れる程度
  • 37.5度以上の発熱・強い動悸・めまいが出たらすぐに中止。主治医への相談も忘れずに
  • 「5分だけ足踏み」の小さな継続が、未来の体を変えていく
📚参考文献
  1. Campbell KL, et al. “Exercise Guidelines for Cancer Survivors: Consensus Statement from International Multidisciplinary Roundtable.” Med Sci Sports Exerc. 2019;51(11):2375-2390. PMC8576825
  2. Bower JE, Lamkin DM. “Inflammation and cancer-related fatigue: mechanisms, contributing factors, and treatment implications.” Brain Behav Immun. 2013;30 Suppl:S48-57. PMC3156559
  3. Hilfiker R, et al. “Exercise and other non-pharmaceutical interventions for cancer-related fatigue in patients during or after cancer treatment: a systematic review incorporating an indirect-comparisons meta-analysis.” Br J Sports Med. 2018;52(10):651-658. PMC5810532
  4. Sweegers MG, et al. “Home-Based Aerobic and Resistance Exercise Interventions in Cancer Patients and Survivors: A Systematic Review.” Cancers (Basel). 2021;13(9):2021. PMC8071485
  5. Wolin KY, et al. “Initiating Exercise Interventions to Promote Wellness in Cancer Patients and Survivors.” Oncology. 2012;26(8):711-715. PMC6361522
  6. Ge L, et al. “Can Exercise Reduce the Autonomic Dysfunction of Patients With Cancer and Its Survivors? A Systematic Review and Meta-Analysis.” Front Psychol. 2021;12:712823. PMID 34504462
  7. Dos Santos WM, et al. “An online home-based exercise program improves autonomic dysfunction in breast cancer survivors.” Support Care Cancer. 2023;31(11):PMC10570414. PMC10570414
  8. Nakano J, et al. “Effects of home-based exercise programs on physical fitness in cancer patients undergoing active treatment: A systematic review and meta-analysis.” Phys Ther. 2023 (PMID 36239907). PMID 36239907
  9. Abdel-Aziz MT, et al. “Effectiveness of Therapeutic Exercise Models on Cancer-Related Fatigue in Patients With Cancer Undergoing Chemotherapy: A Systematic Review and Network Meta-analysis.” Arch Phys Med Rehabil. 2023;104(5):756-766. PMID 36736602
  10. 国立がん研究センター. “がんとリハビリテーション医療.” がん情報サービス. ganjoho.jp
⚠️ 本記事はPT(理学療法士)でもある脳腫瘍サバイバーZUNが、自身の体験と医学的知識をもとに作成した情報提供記事です。診断・治療の代替ではありません。運動を開始する前に必ず担当医にご確認ください。
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ZUN
🩺 理学療法士|脳腫瘍サバイバー|長野県在住 2016年に理学療法士の国家資格を取得し、総合病院の急性期病棟で 脳卒中・整形外科リハビリを担当(糖尿病療養指導士/呼吸器リハ研修・がんリハ研修修了)。 2024年、悪性星細胞腫グレード3を発症。手術・放射線・化学療法を経て 現役で職場復帰。「医療者の知識」と「患者の実体験」の両方から、 脳腫瘍患者さんとご家族の力になる情報を発信しています。 詳細プロフィールは👇https://zunsyuyotaiken.com/profile/